千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.研究の背景 高等教育に対する近年の社会的なニーズは,学士力,就業力,社会人基礎力といった概念で表されること多いが,それらに共通するものは,主に学生の自発性・積極性・自律性といった能動的な態度や他者と協同して課題を達成する過程で経験する対人的相互作用,すなわち言語的,非言語的コミュニケーションを図れる力である.授業に臨む学生の態度の劣化がいわれて久しいが,その育成に併せて,高等教育に対する社会的なニーズを満たしていく授業法として,チーム基盤型学習法(TBL:Team-Based Learning)や問題解決能力養成型学習法(PBL:Project-Based Learning)といった学生自らの思考を促す能動的な学習方略のアクティブラーニングの効果的な導入と運用に期待が一層高まっている1,2). このような教育目的や手法のパラダイムシフトを受け,筆者は千葉工業大学(以下、本学)学部教育シンポジウム(2012)において,アクティブラーニングの概念に基づく本学の「スポーツ科学」の授業方略の教育効果について報告した3).その結果,授業実施前後によって「主体性(物事を進んで取り組む力)」,「働きかけ力(他人に働きかけ巻き込む力)」,「課題発見力(現状を分析し目的や課題を明らかにする力)」ならびに「状況把握力(自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力)」を向上させること,もしくはそのような能力が必要であるという自覚を学習者に芽生えさせることが明らかになった.これまでにも,大学体育授業を通じた言語的コミュニケーション能力や情緒的感受性などの非言語的情報を理解する能力の向上,目標を実現するための必要な行動を効果的に遂行できる可能性の認知とされる自己効力感の高揚などにも有効であることが複数の研究により報告されている.大学体育授業として行う集団スポーツ活動を通じたTBLやPBLが有効とされる理由として,チーム構成員(学習者)間の相互作用を必要とする場面が豊富にあることや,集団行動の中で各学習者に求められている役割を遂行する上で必要となる能力と現時点で当事者に備わっている能力との比較によって,学習者が自己を客観的に分析する機会が多分に含まれているからだと考えられる. ところで,高等教育に対する近年の社会的なニーズに応える上でPBLやTBLの学習方略に期待が寄せられる一方で,これらの学習法は以下のような弱点も内在していると考える.例えば,能動学習へのモチベーションが低い学習者に対する教育効果が小さくなることや,学習者の主体性を尊重するため,その経験や知識の不足から授業を通して満足感や達成感が得られにくくなること,また,学習者の授業への参画の程度が,その時点で形成されている学習者のパーソナリティに依存してしまうことにより,学習集団に対して均質なPBLやTBLの教育効果を得ることが困難となる可能性がある.これらのことを勘案すると,集団スポーツ活動を通じた大学体育授業の方略には,学習者の個性や集団の特性に応じた柔軟性が必要となるが,我々の知る限りではそのような視点から大学体育授業の教育効果を検証した研究報告はみられない. そこで本研究は,社会人基礎力の向上をねらいとしたスポーツ活動を用いたアクティブラーニングの教育効果について,学習者のパーソナリティと関連付けて検討し,TBLやPBLを有効に機能させるための基礎情報を収集することを目的とした. 2.調査方法の手順 この調査対象となった授業は,2009年から2011年にかけて本学の教養科目として開講したスポーツ科学の「ビーチバレーボール」,「卓球」ならびに「トレーニング」である.対象となる授業を受講した学生は,いずれも1年生もしくは2年生の計410名である.なお,この科目では,実技種目ならびにその科目担当者が異なっていても,科目の目的や到達目標は,「他者と協力しながら,自らが課題を見出し,いかにその課題を解決するかを考え実践すること」とし,すべて統一させている(大学HPシラバス参照). 第1週目(Pre)と第12週目(Post)の講義形式の授業にて,学習者のパーソナリティを分析するための主要5因子性格検査ならびに社会人基礎力自己分析用シート(末尾資料)を用いて,学習者に現在の性格ならびに社会人基礎研究項目: 教育研究助成金 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 学習者のパーソナリティによるアクティブラーニングの成果の差異 研究課題名(英文): Effect of active-learning class depends on personality of student 研究者: 引原 有輝 千葉工業大学 HIKIHARA Yuki 工学部 教育センター 准教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      64

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