千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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ている4。 3.大学体育のさらなる可能性を求めて 東日本大震災は地震、防災などに関する学問のあり方を問うことになったが、これはすべての学問領域に関係する。「脳」「意識」「理性」によって物事を把握してきた近代的な知・学問・科学のあり方の再考を促している。また近年、多くの領域でこれまで「知」「科学」の周縁におかれてきた「身体」に注目する動きがある。「身体論」「身体知」に関する研究である。これらのことから考えると、「脳」「意識」「理性」を重視してきた従来の教育に加えて、「身体」「無意識」「感性」を扱うことの重要性が指摘できる。大学体育は「身体」を扱っていることを強調すべきである。「身体」は多様にとらえることが可能だが、ここでは、理性(脳)に対する感性(身体)ととらえることが重要である。近代科学、近代の知はいわゆる経験科学であり、進歩思想、合理主義に行き着く。震災や原発事故の「想定外」は、近代の経験主義に基づく科学ではやむを得ないことである。進歩主義、合理主義、新自由主義などの近代科学、近代知に揺さぶりをかけるための感性(身体)教育としての大学体育が考えられる。 筆者らが取り組んできた大学体育においては、合理的な実践(PBL型授業、グループワーク、さまざまなスキル獲得など)を目指しつつも、理性ではとらえきれないさまざまなことが生じる。例えば「わかっているけどできない」「わからないけどできた」、「(本当はいけないけど)むかついた、頭にきた、やり返したい」「嫌い、いやだ、やりたくない」などの否定的感情などである。また、受講生は身体活動を行う際に、ありのままの感情や本音を言い合う。その実践自体を記述することによって従来の教育から排除されていた否定的な感情などに気づくことが可能になる。受講生が感じたことから「実践」の中に埋め込まれた理論を抽出することで、近代的な知を乗り越える手掛かりを得ることをめざす。近代文明は人間の生(欲望)の無限の拡張をもたらしたが、これが限界を迎えていること、資本主義に代わる新しいシステムの構築が必要であるが、本研究はその一歩となることが期待できる。これまでの成果から推察するに、受講生は自分の専門以外の視点から物事に対する興味・関心を抱き、課題探求を行うことが予想される。否定的な感情があることを含めて、受講生は自分の感情や他者の感情に対する理解が深まると予想される。 4.具体的取り組みについて 「身体知」についてはスポーツ科学、集中スポーツ科学 4 教育だけでなく研究においても教養、専門を問わずさまざまな領域の教員と協力して取り組んできたし、さらに発展させるべく、平成25年度に採択された付属総合研究所の戦略的研究推進準備プロジェクトでは「人を対象とした研究体制の構築による人間科学領域の学際的研究の推進」をテーマに取り組んでいる。 の多くの種目で扱うことが可能である。スポーツ科学(ニュースポーツ)では、学生が実施内容を決定するなど、学生が主体となり授業運営を行っているが、そのなかにブラインドスポーツを導入した。ブラインドスポーツではアイマスクで視野をふさぐことにより、聴覚など視覚以外の身体感覚を研ぎ澄ますことになる。他者の身体の気づきだけでなく、自分自身の身体への気づきが期待できる。スポーツ科学(卓球、テニス、サッカー、トレーニング)などでは、グループ活動による「教えあい、学びあい」活動による他者や自己の気づきが期待できる。集中スポーツ科学(フラッグフットボール)では、「大学体育フラッグフットボール全日本大会」を開始し、複数の大学との交流を開始した。他大学に勝利するために本気で取り組むことにより、さまざまな感情を喚起することができる。これらをもとに理性ではとらえきれないさまざまな感性(感情や感覚)を喚起し、その成果を公表する予定である。 本研究に関する主な発表論文 • 森田啓(2014)、「大学体育がめざすべきこと:高校体育、スポーツクラブ体育、専門体育との関係から」、『大学体育研究』第36号、pp.39-50. 主要参考文献 • 森田啓、林容市、谷合哲行(2007)、「スノーボードを用いた教養教育」、『大学教育学会誌』、第29巻第2号、pp.145-150. • 森田啓、林容市、引原有輝、谷合哲行、東山幸司、三村尚央(2010)、「研究活動への動機づけとしての大学体育」、『大学教育学会誌』、第32巻第1号、pp.129-133. • 森田啓、引原有輝、谷合哲行、東山幸司、三村尚央、亀山巌、黒澤健太郎、林久仁則、松元剛(2011)、「種目特性と授業形態を探求課題とした教養教育としての大学体育:フラッグフットボールと他大学との交流試合を事例に」、『大学体育学』、第8号、pp.75-88. • 鍋倉賢治、遠藤卓郎、大高敏弘、進藤正雄、嵯峨寿、松元剛、谷川聡、福田崇、吉岡利貢、武田丈太郎、村瀬陽介、山田永子、宮下憲(2012)、我が国の「大学体育」の基本理念とカリキュラム、大学体育研究、第34号、pp.59-63. 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      61

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