千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.問題の所在 「大学で体育は必要なのか、必要ならどのような内容で行われるべきか」。大学設置基準の大綱化(1991年)により、大学体育4単位必修の法的根拠がなくなってから20年以上が経った。この間には18歳人口が減少し、2007年に大学全入時代が到来することが話題になった。ところが定員割れを起こして多くの大学が破綻する状況にはなっていない。これはわずかではあるが大学進学率が上昇しているためで、2019年まではこの状況が続くと予想される。しかし2019年以降は大学進学者数が急激に減少し、経営が立ち行かなくなる大学は増加する見込みである。大学経営が厳しくなることが予想され、あるいは厳しくなった際にも、大学で体育は生き残ることができるのだろうか。施設の維持管理にかなりの費用を要するスポーツ施設を放棄し、さらに専任教員を減らすようなことにはならないだろうか。真っ先に削減するのは体育の教員や施設であるという大学が出てくることは不思議ではない。 現在、大学体育1はどのような理念で実施されているのだろうか。鍋倉ら(2012)は各大学で実施されている大学体育の理念を調査し、健康(80.5%)、体力(68.3%)、思考/判断/知識(56.1%)、生涯スポーツ(43.9%)が上位であることを明らかにした。しかしこれらは高校までの保健体育の目標2と同じであり、民間のスポーツクラブでも達成可能である。これらの理念が大学体育として適切かは疑問である。 本研究では、これまでの筆者らの取り組みを振り返り、「身体」を専門に扱う学問である体育の特徴を活かした大学体育のさらなる可能性について考察する。 1 本稿における「大学体育」とはカリキュラムに組み込まれた体育・スポーツ科目をさす。 2 高等学校までの保健体育の目標は「健康教育、体力向上、生涯スポーツ」の3つが柱である。 2.本学における取り組み 筆者らは、従来多くの大学が取り組んできた健康教育等高等学校の繰り返しや、スポーツクラブで実践可能な内容ではなく、PBL(Problem-Based Learning)型授業やグループワークを通した「学士力」「社会人基礎力」の育成、研究活動への動機づけといった大学の教養養育にふさわしい内容で大学体育を実践してきた。また、「身体」を扱う学問3である特徴を活かし、他領域の教員と学際的な教育活動も展開してきた。具体的には「教養発展セミナー(フラッグフットボール)」「教養発展セミナー(スノースポーツ)」において、「対象となるテーマについて調査し、発表や討論を行い、文章表現力・コミュニケーション能力を養うゼミナール形式の科目」という科目の趣旨を踏まえつつ、教育センター内さらに専門学科の教員と連携で実施している。「総合学際科目(身体論)」「総合学際科目(スポーツイベント)」では、教育センター内さらに専門学科の教員と連携して、さまざまな視点から物事を理解し、相反するとらえ方やその解決に向けて学生自身が主体的に考える能力の獲得をめざして取り組んでいる。さらに「総合学際科目(スポーツイベント)」においては、質的転換答申(2012)の「8.今後の具体的な改革方策」で示された地域社会との連携・協力を得て実施している。具体的には同じ新習志野駅を最寄駅にするプロアメリカンフットボールチームの「オービック・シーガルズ」と連携し、シーガルズが実施するスポーツイベントへの学生スタッフの参加、インターンシップを実施している。 大学設置基準の大綱化(1991)並びに学士課程答申(2008)を踏まえれば、専門教育と一般教育、さらに科目区分にとらわれずに、学生を教育する必要がある。上述したように、体育教員はスポーツサイエンス分野だけを担当するのではなく、他領域の教員と協力して総合学際・発展科目分野を担当してきた。さらに「身体」を対象にする特徴を活かし、専門科目、大学院科目も担当し 3 「体育」の語源は「physical education」の訳語である。 研究項目: 教育研究助成金 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 「身体知」の獲得をめざす大学体育 研究課題名(英文): University Physical Education aimed at the acquisition of‘the Body of Knowledge’ 研究者:(○;研究代表者) ○森田 啓 千葉工業大学 若林 斉 千葉工業大学 MORITA Hiraku 工学部 教育センター 教授 WAKABAYASHI Hitoshi 工学部 教育センター 助教 引原 有輝 千葉工業大学 金田 晃一 千葉工業大学 HIKIHARA Yuki 工学部 教育センター 准教授 KANEDA Koichi 工学部 教育センター 助教 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      60

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