千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに 寒冷曝露の繰返しに伴う体温調節機能の適応について,震え産熱の抑制や非震え産熱の亢進などの代謝系応答の変化や末梢血管収縮亢進などの循環系応答の変化が知られており,これらのシステム協関により深部体温を一定範囲に維持しようとする適応現象が見られる.筆者もこれまでに,ヒトの環境適応能に関する研究を行っており,中でも繰返される寒冷刺激とその結果として顕在化する体温調節応答の適応多型性に着目してきた.震えを伴わないMild cold水浸(26°C)を繰返すと皮膚血管収縮を強める断熱型適応を起こすが,産熱応答の適応は見られず(Wakabayashi et al. 2012),また,繰返し水浸(12°C)に伴う震え産熱の抑制が,繰返された深部体温低下範囲に限定されることを報告した(Tipton et al. 2013).本研究では,繰返し曝露される寒冷刺激の違いにより,異なる体温調節応答を意図的に発現させ,曝露を繰返した期間前後に複数条件で体温調節応答の評価実験を行い,繰返された代謝応答と,それに伴い顕在化する代謝応答の適応多型性について,代謝成分および発現組織に見られる特異性や順序性を明らかにする.特に,ヒト骨格筋組織における非震え産熱の亢進に着目し,骨格筋組織および全身レベルでの代謝応答の適応現象ならびに両者の全身的協関を検討する.特に,局所的冷却の繰り返しにより骨格筋の低温度化を起こす群を設定することに独自性があり,先行実験で行った成果(若林2013)に基づいて発案した. 本研究テーマに関する科研費申請および採択後の研究遂行に向けて,1年間かけて戦略的に準備を行った.ひとつは,関連する学会等において研究発表を行い,本研究テーマの背景となる研究成果を示しつつ,研究内容への理解を得ること.加えて,研究準備状況と実現可能性をアピールすることであった.もう一つは,これまでに先行研究を行ってきた研究機関を参考に,実験環境を整備し,本学においても同様の研究を実施可能にすることであった.実験室環境については,千葉工業大学附属総合研究所戦略的研究推進準備プロジェクト「人を対象とした研究体制の構築による人間科学領域の学際的研究の推進」により,人工環境制御室(富士医科産業製,気温5~40℃,湿度30~80%RH,酸素濃度13~20.9%,3.6×5m)が整備され,研究拠点が形成された.本助成では,実験室内で使用する機器のうち,既存の小型低温恒温槽を用いた水循環冷却システムを作成し,実験の遂行を可能にした.さらに,本システムを用いた予備実験を行った. 2.研究の内容 (1)過去のデータに基づく研究発表 本研究テーマの背景となる幾つかの研究成果について,国際学会で1回,国際招待講演を1回,国内学会で2回,国内学会の関連研究会および地方会で1回ずつ研究発表を行った.文末の,本研究に関する受賞,学会発表,招待講演を参照されたい.その他にも二つの関連学会に参加し,学外の研究分担者と研究計画について議論を深めた. 学会では発表内容に関するディスカッションを行ったほか,多数の研究者と情報交換を行い,今後の研究の発展性や計画について議論した.また,本学における研究実施環境の整備状況についても広く発信した. (2)実験環境整備および予備実験 千葉工業大学新習志野キャンパス体育館実験室に設置された人工環境制御室(富士医科産業製,気温22℃,湿度40%RH,酸素濃度20.9%)において,1名の健康な成人男性を対象に予備実験を実施した(図1).前腕部および上腕部を水循環式冷却システムを用いた冷却パッドにより徐々に冷却した.恒温水槽内の水温を5℃に維持し,水循環することにより冷却パッド表面温度が約10℃に設定された.冷却中の腕橈骨筋組織の温度を熱流補償法による深部組織温度計(CM-210,テルモ)により非侵襲的に測定した.また,前腕部皮膚温を測定した. 測定した腕橈骨筋組織温度と前腕部皮膚温の経時的変化を図2に示した.組織温度は,冷却開始前の33.5℃から,40分間の冷却により29.5℃まで,4℃低下した.皮膚温は低下が急峻で,冷却開始10分程度で,約15℃まで低下し,その後40分までに約11.5℃まで低下した.水循環冷却シス研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 寒冷環境に対するヒトの体温調節応答の適応順序性および組織代謝との協関 研究課題名(英文): Cold adaptation in human thermoregulation 研究者: 若林 斉 千葉工業大学 WAKABAYASHI Hitoshi 工学部 教育センター 助教 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      42

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