千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.研究の背景 水中環境は身体ヘの重力負担を軽減できるため陸上環境では困難な動作を可能とし,主に肥満者や障がい者などのリハビリテーションとしての活用が期待されている(1).現在,水中環境では映像を用いて動作を捉える手法が主流であり,最近では防水加工を施したカメラの開発や水中窓を取り付けるなどの工夫も見られるが,多くの手間や高価であること,計測範囲や環境が制限されることは否めない. 近年,小型で軽量化された慣性センサによる動作の計測が急激に行われ始めている.それはこれまで主流であったビデオカメラを用いた解析や高額なモーションキャプチャシステムと比較し,比較的安価で容易に計測でき,実験環境の制限を受けにくいことが主な要因である(2).特に加速度センサや角速度センサを内蔵した慣性センサは,競技スポーツから日常生活動作まで様々な動作の計測に用いられている(3, 4).従って,今後,スポーツ動作の習熟・評価や,健康増進運動,リハビリテーションの現場で慣性センサが一般的に手軽に活用できることが期待される. そこで本研究では,将来慣性センサによる水中環境での動作計測と分析・評価を目指し,その準備実験として,慣性センサと映像を同時に用いた動作計測を行い,慣性センサでの動作計測結果がどの程度映像による動作を再現しているかを検討することを目的に実施した. また,本研究は将来,水中環境への慣性センサの活用を視野に入れており,水中環境と陸上環境の比較,水中環境での反復動作の比較・評価を想定している.従って,本研究では慣性センサで計測した複数回の動作の類似性評価も試みた.スポーツ動作の獲得や熟達,リハビリテーションの場面などでは目的動作との類似性は一つの重要な要素であるが,単に動作が類似しているだけでなく,動作時間の変化も重要である(5).しかし,これまでは動作の時間軸を 0-100% に規格化して比較・評価することが多かった.ところが近年,音声認識の分野にて開発された動的時間伸縮法 (DTW)(6)による動作時間の変動をも考慮に入れた分析が行われ始めた(3, 5).そこで本研究でも慣性センサで計測した動作について,DTW を用いた比較・評価を試みた. 2.方法 本研究では1名の健常な35歳男性を対象者とした.対象者は千葉工業大学体育実験室内の環境制御室内にて通常の歩行動作を3回実施した.歩行動作は,安静立位姿勢をとった後,対象者自身のタイミングで右脚から開始した. 対象者の右側の大転子,大腿骨外側顆,外踝,第五中足骨骨頭に約1.5cm四方のテープでマーキングした.映像撮影後に各マーカーのデジタイズ作業を実施し,二次元DLT法にて足関節と膝関節の角度を算出した.映像撮影はデジタルカメラ(NIKON, COOLPIX, AW-100)に付属のハイスピード動画撮影モードを利用し,120Hzにて撮影した. 本研究では,将来,水中環境での動作計測を想定し,防水加工された慣性センサ (株式会社ロジカルプロダクト社製) を用いた.慣性センサは対象者右脚の足部背側中心付近,下腿部右側面中心付近,大腿部右側面中心付近に両面テープやドレッシングテープなどを使用し強固に貼付けた.サンプリング周波数は100Hzとした.同時に,前脛骨筋,腓腹筋内側頭,大腿直筋,大腿二頭筋長頭にワイヤレス筋電センサ(株式会社ロジカルプロダクト社製)を貼付けし,サンプリング周波数1000Hzにて筋活動を記録した.映像解析用のマーカー,慣性センサと筋電センサを貼付けた様子を図1に示す. 本報告では映像および大腿部と下腿部に貼付けした慣性センサから算出した膝関節の矢状面方向の関節角度変化を比較した結果について報告する.また,慣性センサのデータでは,大腿部と下腿部での左右軸周りの角速度データを積分し大腿部と下腿部それぞれの角度を得た後,両者の関係から膝関節角度を算出した.また,本報告では右脚の動作開始から1回目に右脚の踵が床面に接地するまでを分析対象とした.なお,本研究により得られた膝関節角度のデータは全て6Hzのローパスフィルタにて平滑化した(7). 研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 水中歩行リハビリテーションのための小型ワイヤレスセンサを用いた歩行初期動作の類似性評価 研究者: 金田 晃一 千葉工業大学 KANEDA Koichi 工学部 教育センター 助教 図1.各マーカーおよび慣性センサ,筋電センサを貼付けた様子. 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      39

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