千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに アキラルな前駆体から光学的に純粋な化合物を創製する手法の開発はすべての合成化学者の夢である.我々は最近,アキラルな基質を溶液中で反応させるだけで,高い光学純度の光学活性化合物が得られてくる前例のない現象を見出した.この不斉発現増幅現象は,アキラルな化合物の反応によりキラルな生成物が生じること,生成した不斉中心のラセミ化と優先晶出(動的優先晶出)が同時に系内で起こることで達成できることを解明した.これまでに,コハク酸イミドのmeso体からdl体への異性化反応による不斉合成への適応を見出し報告している.1),2) この反応はアキラルな化合物から外的な不斉源を用いずに光学活性体を導く新しい絶対不斉合成法である.本研究期間内に,この手法を用いることで,エノンへの共役付加反応やMannich反応でのアミノ酸の不斉合成を達成する知見を得ることを目的とした. 2.研究の内容 アキラルな基質を出発原料とし,キラルな化合物の生成と動的優先晶出により,不斉の発現と増幅を実現し,付加価値の高い化合物群を創出するために,以下の反応について予備的な研究を行った. (1)エノンへのアミンの共役付加反応と動的優先結晶化による不斉アミノ酸合成 容易に合成可能なアキラルなアロイルアクリル酸アミドまたはエステルにアミンを共役付加させてα-アミノ酸を合成する反応について検討した. 本手法を達成するためには,(1)アロイルアクリル酸誘導体にアミンが効率良く共役付加し,α-アミノ酸誘導体を生成すること,(2)結晶化の条件で逆反応が進行して効率良くラセミ化が進行すること,(3)アミノ酸誘導体がコングロメレート結晶を形成すること,の3つの条件が必須となる. まず,図1のアリール基を種々変化させ,複数の種類のアミンを付加させて,アミノ酸誘導体を合成した.予想通りの結晶性の高い化合物を高収率で得ることができた.さらに,得られた共役付加物を,キラルなカラムを装着したHPLCにて分割し,ラセミ化が起こるかどうかを検討した.複数の基質でラセミ化速度を測定したところ,室温条件では安定に存在することと加熱することにより効率良くラセミ化が起こることを明らかにした. 図1.共役付加反応と動的結晶化による 光学活性アミノ酸の創製 また,得られた結晶の単結晶X線結晶構造解析にて,結晶中の分子配列と結晶空間群を調査した.解析できた全ての結晶で,アミノ基のプロトンとカルボニル基の酸素原子が分子間で水素結合により螺旋を形成していることが明らかになった.しかし,全ての結晶がラセミの空間群であり,今後,アリール基やアミンを換えた誘導体を合成して,コングロメレート結晶が発見できれば,高効率なα-アミノ酸の絶対不斉合成が可能であることが明らかになった. (2)アキラルな基質のMannich反応と動的結晶化による光学活性アミノ酸誘導体の創製 図2に示したイミンとケトンのMannich反応は,酸や塩基触媒で進行し,α-アミノ酸誘導体を与えることが知ら研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 動的結晶化を伴う光学活性アミノ酸誘導体の絶対不斉合成法の開発 研究課題名(英文): Development of Absolute Asymmetric Synthesis of Amino Acids Using Dynamic Preferential Crystallization 研究者: 笠嶋 義夫 千葉工業大学 KASASHIMA Yoshio 教育センター 教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      37

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