千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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分な対応ができているとは言えないのが現状であり,新興国市場においてはこの傾向はより顕著である.今回の調査では,上流工程にこうしたインタフェース設計の専門家を置いている例は皆無であり,開発プロセスにおける配慮は十分とは言えなかった.専門家の育成には時間とコストがかかるため,プロジェクトマネージャやシステムエンジニアに対して,標準的な設計方法に関する情報提供を行うことが現実的な解決策であると考えらえた. また,インタフェース設計についてはプロジェクトの上流から品質目標を定めたうえで管理することが重要であるが,実施されている例は少ない.これは定量的な管理手法が少ないことによると考えられ,品質特性を考慮したプロジェクト管理手法についてEVM(Earned Valued Management)をベースとした方法を提案した(対外発表[2]). 3.2 システム要求仕様作成に求められるスキルについて 調査結果から,エンジニアに求められるスキルとして多く挙げられた項目は,ソフトウェアエンジニアリング,既存ソフトウェア改良,ITソリューション設計・開発管理,テクノロジ(システム・プログラミング関連および基礎)である.これらはシステム開発における設計に関連した項目であるが,インタフェース設計に関する条件を明示している企業は少なかった.他にはアーキテクチャ設計,設計技法,インフラストラクチャアーキテクチャ設計,通信環境設計・運用管理,プラットフォーム設計,ネットワークシステム構築,データベースシステム構築,業務システム構築,分析・要求定義,開発方式設計が多く,インタフェース設計についてはデザイン能力や外部仕様作成能力に含めた形での告知が多いことが分かった. 3.3 インタフェース設計における認知的側面 実験1では,単語認知過程において単語優位効果が働いているかを単語・非単語の文字再認実験から検証した.結果,正答時の平均解答時間は,非単語より単語のほうが有意に短く,平均して約4秒の差があった.また,単語の正解数は非単語の正解数に比べて有意に多く,正答率が高かった.さらに回答時間と,文字形式(単語・非単語),問題難易度による二元配置の分散分析を行った.この結果,文字形式と回答時間に有意な差が認められた.ここからタイ語における単語優位効果が認められた. 実験2では,ドーサコットが単語優位効果に与える影響を調査するため,目標語にドーサコットを含む単語,含まない単語を使用して実験を行った.その結果,ドーサコットの有無による解答時間に有意傾向が認められた.ドーサコットが単語の認知処理を行うトリガーとして機能し,文章の読解を促進したと考えられる.仮にタイ語読解におけるマーカーとしてドーサコットが形態的トリガーとして機能するなら,この結果は形態的探索誘導によるものと考えられる.しかし,タイ語の末子音は通常子音と形態的な相違は無く,単に形態的要素だけを頼りにドーサコットを同定することはできない.よって,この傾向はドーサコットの同定にあたり認知探索誘導がより機能したものと考えられ,タイ語読解における認知処理優位を傍証するものである. 今後の展望として,タイ語が認知処理優位の言語であることをより確かにするために,今回実験で用いたような単語やドーサコット単語をさらに細分化し,形態類似語や音韻類似語,意味的類似語などを目標単語とする検討が必要である.また有意傾向がみられた実験2のドーサコットの有無による解答時間について,より明確な結果を出すためには,目標単語の文字数や語彙的出現頻度の統制が必要である.また被験者の語彙レベルの測定方法についてより精緻な方法を検討する必要がある. タイ語は単語と単語を組み合わせた複合語で語彙の少なさを補っているので,特定の文字列が多く出現する.タイ語の文章では単語による分かち書きをしないため,単語の境目が不明瞭で単語優位効果が複合語に働くのかについては今回の実験では明らかに出来なかった.複合語において単語優位効果の強く働く部位や単語の種類を明らかにする必要がある.エラーメッセージや表示等のインタフェース設計に応用可能であり,こうした複合語を多用する言語にあってはその効果の大きさと重要性を示すことが可能になる. 多くのプロダクトのインタフェース設計は生産国のポリシーが導入されており統一が必要である.またソフトウェア開発におけるテキストベースのプロトタイプ利用についても単語認知に関するアプローチが可能であると考えている. 参考文献 [1] 平松健司,福住伸一:人間中心設計プロセスのSystemDirector Enterprise開発方法論への取り組み [2] Gerald M.Reicher:Perceptual recognition as a function of meaningfulness of stimulus material, Journal of experimental psychology, Vol.81, No.2, pp275-280, 1969. [3] Heather Winskel:Orthographic and phonological parafoveal processing of consonants, vowels, and tones when reading Thai,Applied Psycholinguistics,page 1 of 21,2011. [4] Xuejun Bai and Guoli Yan,Simon P.Liversedge, Chuanli Zang, Keith Rayner:Reading Spaced Unspaced Chinese Text:Evidence From Eye Movements, Joutnal of Experimental Psychology, Vol.34, No.5, pp1277-1287, 2008. 対外発表 [1] A Study on the Prototype of Focusing on the Operability for Requirement Acquisition, Yusuke Emori, Yusuke Kishiyama, Tsutomu Konosu, HCII 2013, CCIS 373, pp. 27–30, 2013. [2] 品質概念を考慮したアーンド・バリュー・マネジメントの運用に関する研究,麻生裕章,金田健志,山本裕太,江森裕亮,ギッサナー・パチャラニヨム,鴻巣努,日本生産管理学会第39回大会講演集,pp.189-191, 2013. 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      34

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