千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに 日本経済の根幹を支えるものづくり,特にITを中心としたシステム設計について,新興国においていかなる設計支援が必要であるかを知ることは将来の消費市場の拡大に不可欠である.今後継続的な経済成長が見込まれる,タイ,ベトナム,カンボジア,インドネシア,マレーシアの各国は生産拠点としてではなく,新たな消費市場として注目が高まっている.現在,こうした国々では開発の上流工程におけるインタフェース設計は母語をベースとした配慮が少ないため,当該市場における競争力を確保するための差別化戦略としてインタフェース設計に必要な要件を考慮することは重要である.Webデザインやエラーメッセージなど文字ベースのインタフェース設計への基準や国際的標準に見合ったインタフェース設計支援のための,現地のプロジェクトマネジメントに関する方向性を示す必要がある. 2.研究方法 2.1インタフェース設計における環境的側面 システムの導入のプロセスを分析し,受け入れ国における標準設計がいかなるプロセスで実行されているかについて調査した.東南アジア地域では日本との関係が最も深く,経済規模の大きいタイを調査対象として,現地企業における設計担当者へのインタビューを行った.調査対象となった企業は,Toyota Motor, Yazaki Thailand, Nissan Thailandなど生産業およびIT企業を中心とした12社である. 2.2 システム要求仕様作成に求められるスキルについて インタフェース設計をより適切に行うためにはプロジェクトの上流工程におけるシステム要求仕様作成に関わるエンジニアがこうした知見を持つことが重要である.そこで本研究では現地における調査を実施するため,現在日本ではどのようなスキルが求められているかについて調査した. 本研究では,まずIPAによるITSSに基づいて職種や専門分野ごとに求められるスキルの抽出を行った.次にIT,通信関係企業を中心に200社を選定し,求人要件を調査した.これにより現在日本企業が上流工程の担当者にどのようなスキルを求めているかを整理し,インタフェース設計に関わるスキルの認知度を推定した. 2.3 インタフェース設計における認知的側面 インタフェース支援に重要な仕様となる,テキストベースの情報理解について,実験心理学的手法に基づいて検証した.東南アジア言語に多い非漢字系孤立語としてタイ語を対象とし,単語優位性効果に関する検証を行った.これまでにタイ語読解おいては認知的探索誘導が優位に機能し,視線誘導のトリガーとしては形態的要素よりも認知的要素が強く機能することが明らかになっているが,本研究ではこれを単語レベルで検証するため単語優位性効果に関する実験を行った.被験者はThai-Nichi Insitute of Technologyの大学院生21名である. 3.結果および考察 3.1 インタフェース設計における環境的側面 東南アジアを中心とした新興諸国においては,家電製品やITシステム等の先進国から導入されるシステムの基本設計は当該システムを開発する本国の基準によることが多い.その結果,システムを導入する国の設計基準が異なり,そのユーザはシステムによってメンタルモデルの構築プロセスを変更する必要があり,標準化が困難な状況になっている.これは,システムを受け入れる側の設計に関する理解不足に起因するものであると指摘されている. 平松,福住(2006)では,ユーザビリティの高い製品やシステムを実現するため,ヒューマンインタフェースの専門家が,上流工程から開発プロジェクトに入り込み,専門的な視点からユーザビリティの向上のためのコンサルティングを行う取り組みの重要性を指摘している.しかし,専門家の数は限られており,コンサルティング対象のプロジェクトの数も限られるという課題がある.新興国市場において,こうした専門家の調達はより困難な課題であり,大学を中心とした専門家育成のプロセスがどのように機能しているかを調査する必要がある.また,多国籍を前提としたアプリケーション開発にあたっては,国や地域別情報に応じてユーザに情報を表示するような多言語対応が必要であるが,開発プロジェクトのリソースの問題から十研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 新興消費市場におけるユーザインタフェース設計支援に関する研究 研究課題名(英文): A Study on Supporting Interface Design for Emerging Consumer Markets 研究者: 鴻巣 努 千葉工業大学 KONOSU Tsutomu 社会システム科学部 プロジェクトマネジメント学科 准教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      33

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