千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに わが国の高齢化は急速に進み,2050年には65歳以上の高齢者の人口割合が39.6%になるものと予測されている.若い年代の労働力の維持が懸念され,高齢者の再雇用が注目されている.しかし,作業者は加齢に伴って疲労が蓄積しやすくなり,作業の継続性という点で問題視されている. 疲労による注意力散漫,判断力減退は誤操作に繋がり,事故発生の危険性が高くなる.従って,作業時の生理的変化をリアルタイムで検知して定量的に評価し,それに基づいて作業者に警告を発することができるようになれば,高齢者の再雇用に大いに貢献できる.しかし,疲労を捉える的確な指標は存在していないのが現状である. 2.研究目的 本研究では,ウェアラブル(wearable)な装置を用いて,軽作業に従事する高齢者の心拍変動を測定し,作業時間の経過に伴う疲労評価の可能性を検討することを目的とする. 3.実験 自律神経系は,精神的な疲労の影響を受けるため,心拍変動成分を解析することで人間の疲労を捉えることができる.心電図波形のRRI(R-R interval)時系列データに周波数解析を施すことで求めることができるHFは,副交感神経が活性化すると値が低下し,LFは,交感神経が活性化すると値が上昇すると報告されている.すなわち, LF/HFの値が上昇すれば,人間は自律神経系のバランスを崩し,疲労感といった精神的なストレスを感じているとの推測が可能となる. 本研究では検品作業と仕分け作業の2種類の軽作業による実験をそれぞれ60分間行った. 検品作業は,ボックスの中に入っているクリップから不良がありクリップを抜き出す全数検査を行う.仕分け作業は,クリップをチャック付きのビニール袋に封入し,納品ボックスに入れる作業を行う.なお袋に入れるクリップの個数は、ランダムに決めた数が書かれた指示書で示した. 作業開始時から作業終了時までの心拍のデータを小型ワイヤレス心電計用いて計測し,同時に5分ごとに主観疲労検査を行った.計測された心拍のデータの結果からHF,LFの2つの精神疲労の指標を用いて5分ごとにLF/HFを算出した.被験者は高齢者5名(67~72歳)を対象とし,高齢者と比較するために若年者5名(21~32歳)も対象とした. 被験者の疲労は,主観的評価(SD法質問紙,自覚症調べ),生理的評価(LF/HF,血圧, フリッカー値),他覚的評価(処理個数,エラー率)の三側面から評価した. 4.結果及び考察 検品作業による実験の結果,図1より交感神経の影響を受けているLF/HFの値は若年者,高齢者共に上昇傾向が見受けられ,特に高齢者は30分の地点から急上昇し始めた. 0.60 0.70 0.80 0.90 1.00 1.10 1.20 1.30 1.40 10分20分30分40分50分60分LF/HF高齢者の平均値若年者の平均値 図1 時間経過におけるLF/HF また,図2より処理個数の値は,若年者は上昇し続けるのに対し,高齢者は30分の地点から緩やかに減少し始め,LF/HFが急速に上昇した地点と一致する. 0.60 0.70 0.80 0.90 1.00 1.10 1.20 1.30 1.40 10分20分30分40分50分60分処理した個数高齢者の平均値若年者の平均値 図2 時間経過における処理個数 研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 軽作業に従事する高齢者の疲労評価に関する研究 研究課題名(英文): A study on evaluation for senior worker engaged in light operation 研究者: 小野 浩之 千葉工業大学 ONO Hiroyuki 社会システム科学部 経営情報科学科 助教 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      31

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