千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに 本研究では,蝶型のはばたき飛翔メカニズムの解明とそれを実装した小型はばたきロボットの実現を目指している.「飛ぶ」を実現する方法は多種多様であるが,その飛行特性は主に機体のサイズによって決まる.cmサイズの昆虫が利用する「はばたき」は,垂直離着陸,ホバリング,急旋回,狭隘空間での飛翔が可能であり,飛行ロボットとしての利便性が高い.このような高い運動性能の実現には翅周りで生成される剥離渦が関与していることが知られており,この剥離渦の挙動を明らかにすることが小型はばたきロボットの開発のカギとなる.一般的な固定翼などにおいては,翼幅方向に軸をもち翼弦方向に流れる二次元的な渦が生成されるが,昆虫のはばたきにおいては,前縁,翼端,後縁から,大きさも回転軸も異なる三次元的な渦が生成される.前者では,剥離渦は不安定化や揚力低下を招き抑制されるべきものであるが,後者では,姿勢を安定化し揚力を改善する積極的に生成,再利用されるべきものである(1). 本研究では,このような渦の挙動を数値解析することによってはばたき飛翔のメカニズムを明らかにし,これを実装した小型はばたきロボットを開発することを目的とする.ここでは,はばたき周波数が10Hz程度と低く,正方形に近い(アスペクト比の低い)翅をもつ蝶型のはばたき飛翔に着目し,左右非対称な翅制御ではなく,フラッピング運動の中心角度を左右対称的に変化させることにより,ピッチ,ロール軸周りの安定性(縦横安定性)を検証する. 2.構造・流体連成計算によるはばたき飛翔解析 アスペクト比が低い弾性膜翼を有する蝶の飛翔解析においては,はばたき運動により翅周りの流れ場が変化し,その圧力場により膜翼が弾性変形するという構造と流体の連成問題を取り扱うことになる.ここでは,計算精度は低いが,独立した条件を設定可能であり構造と流体を分離して解く弱連成法を採用した.構造計算においては,翅の撓みや捲れだけでなく,腹振りの機構も多質点系としてモデル化され,はばたきと共に重心が大きく上下振動し,ピッチ角が振れ運動するという蝶特有の運動も再現可能になっている.また,流体計算においては,左右の翅の打ち付けによる計算空間の変形を扱うため,非構造格子の生成に有利な有限要素法(FEM)を用いて,3次元,非圧縮,粘性,非定常として連続の式とNavier-Stokes方程式を解いている.尚,翅境界の移動のためにALE法,高速化のために圧力と流速を分離して解くSMAC法,計算の安定化のためにSUPG法を採用した(詳細は参考文献[2]を参照されたい). Case A 80° -55° COG Right wing Wing Roll angle Pitch angle Case B 75° -60° COG Right wing Wing 12.5° 7.5° Flapping angle Flapping angleReaction Reaction Fig. 1 Fllaping motion models 本報告では,翅のフラッピング運動における中心角度を変更し,翅反力の作用点の位置の違いにより変化するピッチ・ロール姿勢の挙動を検証する.図1に示すように,Case Aでは,フラッピング角は80°~-55°,中心角は12.5°,Case Bでは,フラッピング角は75°~-60°,中心角は7.5°に設定する.これより,はばたき一周期による平均翅反力の作用点はCase Aの方がやや上方にあることになる.重心は腹部分にあるので,フラッピング中心角が大きいほど平均的に鼻を下げるようなモーメントがかかる.ただし,翅反力は滑空などによっても発生し,落下すると,ピッチ姿勢を上向きにするモーメントが働き,前進すると前向きにするモーメントが働く.以上のケース設定で数値計算を行研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 蝶型はばたき飛行における受動的姿勢安定化のための渦挙動の解明 研究課題名(英文): Analysis of Vortex around Butterfly-style Flapping Wings for Passive Attitude Control 研究者: 菊池 耕生 千葉工業大学 KIKUCHI Koki 工学部 未来ロボティクス学科 教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      25

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