千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに ローマクラブより『成長の限界』として研究報告されたのが1972年である.そのなかで,「このまま人口増加や環境破壊がつづけば,石油などの化石エネルギー資源の枯渇化や環境悪化によって100年以内に人類の成長は限界に達し,破局を回避するためには地球が無限であるということを前提とした従来の経済のあり方を見直し,世界的な均衡を目指す必要がある」と警鐘し,論じている.それから40年経とうとしているが,人類は地球の有限性に危機感を覚えつつも,その根本的な対応策が見いだされていない.資源に乏しい我が国も,脱原発や代替石油エネルギー開発の樹立を目指し,産官学連携となって様々な取り組みが行われている. 一方,日本初の月探査機「かぐや」や世界初となる小惑星(イトカワ)探査機「はやぶさ」の科学的成果をはじめとして,宇宙開発の国際的競争が加速化している.1969年アメリカのアポロ計画による人類初の月面着陸に成功し,我が国でも2020年には有人月探査,2030年には月面基地の建設が計画されている.そのミッションには,宇宙科学の新発見のほかに,当然のことながら地球外における資源開発が含まれている.その中で注目されるミッションの一つに清水建設が提案する「月太陽発電-LUNA RING-」がある.本ミッションは,月の表層物質を極力活用し,太陽電池(シリコン)を月赤道面にベルト状に設置し,発電エネルギーをマイクロ波やレーザー光に変換し,地球に伝送するものである. 本研究課題では,月の資源的利用の礎となる月の元素・鉱物分布図と比較し,月の裏と表の原始地殻の差異(月の二面性)を資源的利用の観点から考察する.ここでは,「かぐや」が発見した純粋に近い斜長岩と同一鉱物組成の岩石を地球上より探索・入手し,地球資源である腐植物質と混合することで,自然エネルギーのための資材開発と食糧生産の場としての土壌創製,さらに固層への無機的炭素固定を明らかにすることを最大の目的とする.論者らの著書に提唱した月の資源的利用の構図を図1に示す1). Plagioclase rockcrashsmall particlesadd acidic solution with adequate pH (i.e. fulvic acid)pH > 0.4amorphousor crystallinealminosilicatesynthesis atadequate conditionzeolite, smectiteagriculturalmaterials(soil)pH < -0.1Al3+ionadd alkalinesolution pH > 4.5Al(OH)3electrisisat 1000 deg.The raw materialof constructionamorphous silica+ plagioclaseliquid phasesolid phaseadd alkalinesolutionsilica geladd acidand dryresidualplagioclaserecirculation 図1 月表層物質(斜長岩)の資源的利用1) 2.地球上における純粋な斜長岩の探索・入手 月探査機「かぐや」の観測により,月の裏側の重力分布と化学組成分布の詳細が明らかとなった.月の表側は比較的平坦な地形が占めており,「月の海」と称されている.一方,裏側は起伏に富んだ「月の高地」と称し,そこに点在する月内部の地殻が露出したクレーターから98 %以上の純粋な斜長岩(An:灰長石Anorthiteの含有量,An98以上)が確認された2).また,共同研究を行っている武田らは,月の裏側からの隕石(Dhofar 489)を世界で初めて鑑定し,42.3億年前の最初期に出来た斜長岩(An96)を発見した3).我々がこれまで入手した斜長岩試料はミネソタ州Crystal Bay産亜灰長石(An76),オレゴン州Poderosa鉱山産曹灰長石(An68)であるが,地球上においては月高地のような純粋な斜長岩は得ることは難しい.JAXAと清水建設との共同開発により作成した月の模倣レゴリス4)を亜灰長石と曹灰長石ともに図2に示す.Caに富む灰長石の含有量は酸溶液に対する溶解速度が著しく関係し,月の高地にみられる高純度の斜長岩は地球で行われているような選鉱過程を必要としない.我々は,地球資源である“腐植物質”のような弱酸で純粋な斜長岩を溶解し,発電素子製造のためのシリコンを抽出し,また宇宙農業用土壌の創製を目指している.現在,地球上に稀に存在する純粋な斜長岩(An95以研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 地球資源“腐植物質”を用いた月の表層物質の資源的利用と土壌化に関する研究 研究課題名(英文): Resource utilization as pedogenesis from lunar surface minerals by earth resource “humic substances”. 研究者: 矢沢 勇樹 千葉工業大学 YAZAWA Yuuki 工学部 生命環境科学科 准教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      17

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