千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに 両親媒性2分子膜(2重層膜)は,自己組織化による高機能膜材料に使われ,また,Langmuir(L)膜は,Langmuir-Blodgett膜(LB膜)など高機能膜開発技術として重要である。水中の両親媒性2分子膜の物性は,2重膜間の分子間相互作用は大変小さいうえ,膜面内分子間相互作用の大きさを反映する固相―液相転移点が同じため,L膜の熱力学物性と同じはずである。尾関ら1)は,脂質2分子膜の膜電位および膜抵抗が磁場応答することを発見し,磁場が膜構造を変化させたためと考えた。分子間相互作用がない場合,構成分子の反磁性磁気相互作用は桁違い(~8桁ほど)に小さく,膜物性や熱力学パラメータは,磁場効果が現れないため,膜面内の構成分子間に異方性共同的相互作用があり,共同的に磁場に応答する分子数1000万個のドメインが形成され,このドメインが超反磁性ドメインとしてふるまうと推定された。このような異方性磁場効果は,両親媒性2分子膜からなる人工膜2)や生きた細胞3)にも影響が発見された。両親媒性分子膜の異方性超常磁性は,このように,新しい自己組織化の可能性とともに,新しい高機能性膜開発の可能性を有しており,その熱力学的なパラメータの測定やメカニズムの解明が重要となる。 熱力学的計測は,L膜については可能であるものの,両親媒性2分子膜については,現状では,方法が存在しない。水中の両親媒性2分子膜の物性は,2重膜間の相互作用が小さく,膜面内の相互作用が同じ(固相―液相転移点が同じ)ため,L膜の物性と同じはずであり,L膜でも超反磁性が期待されるが,測定精度の問題から,確認されていない。本研究では,主としてLB膜への応用を想定し,両親媒性2分子膜と同様に,L膜においても超反磁性があるかどうかを調べ,L膜における熱力学的なパラメータや,超反磁性メカニズムの解明を行う。 L膜を張った表面のσは,水表面の持つヘルムホルツの自由エネルギーσ0(表面張力と等しい)よりも,L膜が持つ表面を広がろうとする圧力だけ低下する特徴がある。また,磁場が膜構造を変化させた場合,膜構成分子間相互作用が変化して,表面圧も変化する。このことから,膜構成分子間相互作用による膜構造の磁場効果は,σ-σ0の磁場依存性と温度依存性を調べることにより,超反磁性ドメインの共同性相互作用を定量可能となる。 一方,申請者はσ0の絶対値の精密測定を行い,σ0の精密な磁場ごとのデータを所有している。σの計測方法には様々存在するが,申請者の開発した表面波共鳴法4)は,接触角の影響を受けない特徴がある。一方,尾関らにより,磁気により接触角が変化することが示されていることから,一般的に高精度測定に使われる毛細管上昇法などは,使用できない。加えて,接触角が表面張力そのものに依存するため,表面張力が磁場で変化することは,接触角も変化するため,複数の毛細管の上昇値を用いて補正しても,σの絶対値は得難い。 そこで,本研究の科研費申請課題としては、σの絶対値の磁場依存性とともに温度依存性を調べることにより,L膜の表面圧および表面エントロピー,表面内部エネルギーなどの熱力学パラメータを明らかとし,超反磁性ドメインの異方性共同性相互作用を解明することが目的であるが、科研費申請準備支援助成金研究として、本研究の準備段階として、本研究の昼夜連続測定の必須性があるため,計測装置の自動化を行う目的で本経費を申請した。 2.研究の内容 熱力学量である表面エントロピーがdσ/dTなる微分演算を経て得られる量であるため,σの精度がより高く要求される。そこで、1)測定精度を向上させる必要がある。2010年度までの測定精度が、主として、磁場の均一性とともに電磁石を冷やすコンプレッサーの振動により決定されているため、電磁石とコンプレッサーを改造する必要があるが、本研究経費では賄えないため、次の項目2)を実行した。すなわち、2)として1)の精度向上も図れるとともに長期間(2~3ヶ月)の測定に耐えるように、温度の安定度の向上と測定の自動化を行うことを実行した。自動化についてであるが、本計測システムは入力付き励起装置、表面波計測装置、共鳴弁別装置からなる。現在は、マニュアルにて入力電圧を調整して共鳴周波数を検出研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 超反磁性Langmuir単分子膜の熱力学的研究 研究課題名(英文): Thermodynamic Approach of Super-Diamagnetic Langmuir Membrane 研究者:飯野 正昭 千葉工業大学 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      13

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