千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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これまで述べたように,FM検出制御方式のDFM(FM-DFM)は,探針―試料間に働く相互作用力を,カンチレバーの共振周波数シフトを引き起こす「保存力」と,振幅変化を引き起こす「散逸力」とに分けて検出できる.さらに真空圧力環境下などのカンチレバー振動のQ値が高い場合,散逸力は保存力以上に敏感に表面相互作用として反映する.そのため本研究によって,近接場光によって生じる種々の光誘起相互作用力を散逸力変調によって検出することで,「顕微鏡装置」としても,また「計測手法」としても,全く新しい高感度・高分解能DFM/SNOMが実現される(5). 4.レバー評価 PZT薄膜カンチレバーをSNOM用探針(プローブ)として利用する際,まず当該プローブの光学特性を評価し,その特性を把握しておく必要がある.具体的な検出原理は,PZT薄膜カンチレバーの探針先端で近接場光が散乱光に変換され,この散乱光による光誘起力を検出することで微小光学像が取得できることになる.しかしながらPZT薄膜カンチレバー先端で発生する散乱光は,探針先端を形成しているSiNx膜やPZT 膜によって偏光特性が変わってしまう可能性がある.そのため,15度毎の偏光板による透過光強度評価を行い,結果として図3に示すような偏光特性が得られた.この結果から,入射方向に対して45度に極小点,135度に極大点が現れていることが確認された. 図3. PZT薄膜カンチレバーの偏光特性(s偏光時) 図4. PZT薄膜カンチレバーの電子顕微鏡像(正面) これはPZT薄膜カンチレバーのピラミッド形探針の稜線部分に相当していることが想定されるため,本学にある電界放出形走査電子顕微鏡(S-4700,日立ハイテク社製)にて,探針先端部分の観察を行った.その結果,図4に示すように,ピラミッド形探針の稜線が45度および135度方向に存在することが改めて確認され,それらが導波路的な作用を及ぼしていることが考えられる. 5.おわりに ダイナミックモード動作のAFMにおいて散逸力が高感度に検出できることを利用し,近接場光を由来とする微弱な相互作用力を,散逸力によって検出するという試みは,ユニークな提案であり,また測定対象を”光”ではなく”力”とすることで現状のSNOMにおける実験的分解能限界(〜10nm)を打破できる可能性がある.一方,近接場光が引き起こす局所相互作用力の物理メカニズムは不明の点が多く,光誘起力の距離依存特性の評価やFDTD(Finite-difference time-domain method)法による電磁場解析などを通じて解明していく. 図5. 光誘起力の距離依存特性評価のための模式図 加えて,本研究でのDFM/SNOMの安定な近接場光学観察を実現し,さらに最小変位検出感度を原子・分子分解能を有するAFMの検出感度である10 fm/Hz0.5程度にするため,顕微鏡システムが有するノイズ要因を解析して高感度化・高分解能化を図り,散逸力による近接場光検出の感度を見積もっていく必要がある. 参考文献 (1) N. Satoh, K. Kobayashi, S. Watanabe, T. Fujii, H. Yamada, K. Matsushige : Jpn. J. Appl. Phys., 43 4651 (2004). (2) J. Mertz, M. Hipp, J. Mlynek and O. Marti. : Appl. Phys. Lett., 64 2338 (1994). (3) M. Abe, Y. Sugawara, K. Sawada, Y. Andoh and S. Morita : Appl. Sur. Sci., 140 383 (1999). (4) T. Fukuma, K. Kobayashi, H. Yamada, and K. Matsushige : Rev. Sci. Instrum., 75 4589 (2004). (5) N. Satoh, T. Fukuma, K. Kobayashi, S. Watanabe, T. Fujii, K. Matsushige, and H. Yamada : Appl. Phys. Lett., 96 233104 (2010). 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      12

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