千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに 自己検出型カンチレバー(圧電薄膜カンチレバー)を用いたダイナミックモード原子間力顕微鏡/近接場光学複合顕微鏡(DFM/SNOM)において,高感度相互作用力検出が可能な周波数変調(FM)検出制御法を採用することで,ケルビンプローブ表面力顕微鏡(KFM)などの様々なナノプローブ機能計測と同じく学術的・工学的応用が可能となる(1).このFM検出制御方式DFM(FM-DFM)においては探針-試料間に働く相互作用力は,カンチレバーの共振周波数シフトを引き起こす「保存力」,振幅変化を引き起こす「散逸力」に分けて検出することが可能である.ここで散逸力は,カンチレバー振動のQ値が高い場合,保存力以上に表面相互作用を敏感に反映する.そのため本研究では,近接場光によって生じる種々の相互作用力を散逸力として検出をすることで,新しい高感度・高分解能DFM/SNOMを実現することを目的とした.具体的には,最適な自己検出型プローブの高感度化を図るとともに,標準試料を用いて本測定法の理論解析,検出光強度の定量化に関する考察を経て,近接場光の力検出法を確立していく. 2.研究背景 半導体探針に誘起される光起電力を利用し,近接場光を静電気力によって検出する研究(2),(3)が過去に行われている.但し,探針表面電位はその表面状態に敏感であり,探針清浄,光学雑音の存在などにより,実用的な評価法としての課題が多い.一方,静電気力に基づく散逸力変調による高感度な表面電位観察(4)が実現され,散逸力変調による光誘起相互作用力の高感度検出では上述の課題を解決した全く例のない新しい走査プローブ顕微鏡が構築できる. また探針表面電位は,その表面状態に大変敏感である.そのため,探針清浄化処理の必要があること,光学雑音の問題があること,それらの制約から,実用的な評価法として応用するには課題が多い.しかしながら本研究では,微小変位検出のために圧電薄膜センサを用いることで,一般的な光学(光てこ法)変位検出を利用しないため,こうした光学ノイズの無いSNOMの構築が可能となると考えられる. 3.研究内容と装置 本研究は,従来の近接場光学顕微鏡(SNOM)とは異なる,新しい動作原理に基づいたナノスケール光学評価手法であり,カンチレバーの振動エネルギーの散逸成分(散逸エネルギー)の計測により,光学物性を高感度・高分解能で評価する手法を提案するものである.その基本原理となる,近接場光による相互作用力発生のメカニズムの詳細は不明な点もあるが,問題点を明らかにしながら,その原理の検証によりメカニズムを解明することで,将来のナノスケール光学特性の評価技術として確立することが可能である. これまでに自己検出型カンチレバーとしてPZT薄膜カンチレバー(図1および図2参照)を用いたAFMをベースとする散乱型SNOMの開発を行い,さまざまな試料に対して多角的な表面物性計測,光学特性評価に成功している.しかしながら,光伝搬・集光損失,不用散乱光の干渉などの問題から,プローブによる散乱光検出の感度向上には限界があり,原子・分子分解能(0.2 nm以下)を達成するには,何らかのブレークスルーが必要であった.そこで,DFMにおいて高感度な力検出が可能な散逸力変調法を用いて,近接場光を力として検出することを着想し,研究申請をするに至った. 図1. PZT薄膜カンチレバーの断面模式図 図2. PZT薄膜カンチレバーの電子顕微鏡像(側面) 研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 圧電薄膜カンチレバーを用いた多機能プローブ走査型顕微鏡の開発 研究課題名(英文): Development of multi-purpose scanning probe microscope using a piezoelectric cantilever 研究者: 佐藤 宣夫 千葉工業大学 SATOH Nobuo 工学部 電気電子情報工学科 准教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      11

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