千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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て再現対象を再現させる」の2つを被験者(3年以上のデザイン学歴の者5 名)の結果と既往研究の知見から再現対象となる形状は少なくとも次の特性を持つ必要がある事が分かった。①ある一つの面を接地面としたとき、この面に対し水平または垂直関係になる面の数なるべく少ない。つまり立体を把握し易くする手掛りを少なくする。②多角的な観察を必要とし、目視できる面や線だけを観察するだけでは再現することが難しい。 4.視線解析からの考察と光トポによる検証 計測機器を装着することでストレスを感じるのは当然である。その為、実験は同じタスクを段階的に行った。まず、1)視線解析のみを装着して全体傾向を観察し対象立体を検証する。2)同じく視線解析のみを装着し詳細な内省報告などを求め、思考プロセスを解析可能なデータを得る実験*4。最後に3)光トポも装着した被験者で2)と同様の傾向が見られるかを検証した。実験2と3は、一般的な立体認識問題によるスクーリングを40名に実施し、POSA(部分階層分析法)により認識能力別に分類した上で被験者を各5名抽出し行った。 4.1. 対象立体の検証 実験1の結果、形状の再現に至る被験者の思考プロセスは2つのタイプに分けられた。視線傾向と同時に以下に示す。まずタイプⅠの被験者は、平行四辺形を接地面に、高さの頂点座標を決め、再現率の高い被験者に比較して観察時間が短く、一度接地面を設定すると置き換える作業をほとんどしない傾向が確認できた。次にタイプⅡの被験者は断面となる直角三角形を捉え高い再現率で再現でき、対象を手に取ってあらゆる側面を、正面として捉え、形の捉えやすい角度を把握した。また接地面の置き換えも頻繁に行なう傾向が確認できた。 図2 形体再現タイプ及び実験風景 そして、観察時間の長さ、対象の何処の部分を基準とするかは被験者個人の能力, 特性に依存すると言える。また、接地面を設定し高さを捉えるとき、基準となる点、もしくは点同士からなる線分に垂直, 水平関係にある面もしくは線が存在しない場合、把握が困難になると考える。 視線解析により再現率の高い者でも、一度自身のわかり易い基準を設けてしまえば、観察回数、観察箇所が少なくとも、正確に形を捉えることができる者も確認でき、このことから、被験者個人の立体把握能力と、再現対象との関係性について調査する必要性が確認できたため、さらにこれを検証した。 図3 最終形体サンプル及び機器装着実験風景 4.2. 視線解析及び光トポを同期した検証実験 視線解析のみを装着した実験2および光トポも装着した実験3において、全ての被験者に形体解析作業時にワーキングメモリーに関連するBA9野もしくはBA46野の賦活状態が確認できた。つまり視線の注視点は意識されて見ている状態にあったと認められるため、視線軌跡動画の観察分析を行った。その結果、再現率の高い被験者には共通の思考過程と注視傾向が見られた。再現率の高かった被験者は、傾斜をもった辺、面を自身に対し水平, 垂直なものになるよう、独自に再現対象の向きを変え、回転させて観察する傾向が見られた。同時に、四角柱、三角柱等、最も単純な形状へと置き換え、これを切削することで、再現する傾向が確認できた。これらの被験者はいずれも黙視できない断面となる直角三角形を正確に捉え、さらに同じ長さの辺、相似形をもった面の位置等も把握できていた。 図4 視線解析及び光トポ同期データ解析画面例 三次元上での再現行為における、立体把握能力には点同士の関係を整理し、結び付けることができる能力が大きく関わっていると思われる。三次元の立体物では空間上に水平, 垂直なマス目(グリッド) が存在しないため、被験者は同じ長さの辺、平行な関係を持った辺や垂直に交わった辺などを把握し、これを整理することで正確に再現しようとする。これは被験者が形体理解のため独自の基準を設けるという、二次元上での立体把握能力を扱った、既往研究の報告と同様の傾向であると言える。 5.総括 既往研究及び関連研究で得られた知見を基に、再現対象立体物の適性を調査し、再現行為における被験者の傾向、再現が容易な立体の構成、困難な構成を抽出した。さらに被験者を立体把握能力により分類し、視線解析装置と光トポを併用した実験動画の解析から、限られた条件化の形状であるが、デザインの造形技術の重要な部分である立体物の再現行為における思考過程や観察傾向の形式知化ができた。方法論の有効性は確認できたので今後は引き続き異なる造形方法での検討を行う事で広く造形技術全般の形式知化に至る事ができると考える。 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      122

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