千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.背景および目的 プロダクトデザインにおいて、スタイリングデザインプロセスで用いられる造形技術には2次元スケッチと3次元モックアップがある。最終の提出段階ではCAD、3Dプリンターなどを用いる事で形状再現は可能である。しかし、形状の概念を具現化し確認する段階つまり造形行為のほぼ全ての段階では、代替技術はない。一般的には部分的に造形し全体との関係性から正しく行われているかを判断し、次の部分に移り完成に至る。この判断する行為が難しく、特に「立体把握」がどのように行われているかが明らかになっていないため形式知として説明するのは困難である。既往研究から立体把握能力は、三次元または二次元上の物体を観察し、その位置や方向、大きさ、形状の特徴等を正確且つ、円滑に把握、認識する能力であると定義できる。 本研究が注目したのは以下の2点である。1)既往研究は設計図面と立体の相互理解を目的としたものであり、形状の理解と立体把握能力の一部を示したものといえる。本研究は三次元の空間に存在する立体物を観察し、これを同じく立体物として再現する際、人の形体理解と、これに影響を与える造形要素を抽出することで、既往研究では明らかにされていない、造形技術の根幹である立体把握能力が行使される形体理解への思考プロセスや、その特徴を探り形式知化に繋げられる事を目指す。その際に2)従来の視線解析装置(EMR-9ナック製)のみでは知覚情報以上に解釈する為には記憶内省報告の考察のみであった作業行為分析の解釈について、ウエアラブル光トポグラフィ(以下、光トポとする。WOT-100日立製)を併用し、ワーキングメモリーに関係する部位に賦活状態が認められれば認知されたと確認できる立場をとった。 2.研究方法 三次元の立体物を観察し、これを正確に再現させる際の立体把握能力を研究した例はない。また、視線解析装置と光トポを組み合わせた実験例もないため、これらに関連する幾つかの実験を通し要件の絞込みと実験方法の検討を行った。まず、幾何学図形の3D立体視に関する実験*1では視線解析と立体形状認知について検討した。従来的な立体形状の再現については、スケッチと視線移動の関係性*2を探った。これらから実験対象立体の形状を検討した。 次に、光トポとは、近赤外光(波長:800nm付近)を用いて頭皮上から非侵襲的に脳機能マッピングする、「光機能画像法」の原理を応用した装置であるこのデータ解釈に関しては、自動車運転に関する研究領域で作業と脳血流量の関係性の研究が散見されたため、この領域の課題である妨害的な光刺激に関する実験*3を行い、視線解析と光トポの併用する際の実験方法の検討も行った。 脳の血流量を評価指標として使う上で、刺激に対する賦活のグラフを判読するために「脳機能局在論」(図1)に基づきコルビニアン・ブロードマンが脳の組織構造が均一である部位ごとに1~52の番号を付け区分した「Brodmann areas BA」を参照した。本研究で使用した光トポはBAのワーキングメモリー負荷により活性化する9野(注意保持)と46野(プランニング)、疲労時に活性化する10野(未来について考えることに関わる)の3つが計測可能である。これらから、視線解析データの知覚と認められる個々の「注視点」に関して定量的に解析するのではなく、一連のタスクに対し各野に賦活が見られる場合は視覚情報が認知されているという解釈が成り立つと判断した。その為、両装置の記録映像を同時に観察考察することが絶対条件となったため、計測を同期スタートする為の装置を制作し実験環境を整えた。 図1 光トポ計測センサーとBA部位の関係 3.再現対象となる立体物の適性の検討と設定 「分解された立体を組み合わせ、再現させる」、「切削し研究項目: 研究科特別経費 研究期間: 2011/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): ウエアラブル光トポグラフィーと視線解析を併用したデザイン造形技術の形式知化に関する研究 研究者: 長尾 徹 千葉工業大学 NAGAO Toru 工学部 デザイン科学科 教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      121

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