千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに eラーニング分野では,教育の品質向上や内容の豊富化のために,学習コンテンツや学習方略記述の流通再利用を促進することが不可欠である.しかし,学習者適応機能を有する学習コンテンツや協調学習の学習方略記述を流通再利用する枠組みは確立されていないのが実情である.これは,流通再利用性と学習支援機能の拡張性の両立が困難であるためである.上記の課題を解決するため,報告者らは「教材オブジェクト」と呼ぶ概念を導入した学習支援システムのアーキテクチャELECOA (Extensible Learning Environment with Courseware Object Architecture)を提案し,自己学習支援システムに適用した[1-2].本研究では, この概念をベースに,自己学習支援に留まらず,構成主義的学習観に基づくグループ学習などの多様な学習形態を統合的に支援し,機能追加やカスタマイズに柔軟に適応可能な機能拡張性と,コンテンツや学習方略記述を含むシステムの相互運用性を両立可能な学習支援システムの構成法を研究開発する. 2.研究の内容 (ア) 拡張性を有する学習支援システムアーキテクチャ 前節で述べた「教材オブジェクト」と呼ぶ概念に基づくアーキテクチャの構成を図1に示す.教材オブジェクトとは,従来プラットフォームに埋め込まれていた様々な教育的な機能を取り出したプログラム部品で,これによって,プラットフォームを「モジュール化」して,機能拡張性と相互運用性の両立を図る.教材オブジェクトによって,学習者に適した教材の選択や表示,学習履歴の記録,などの機能が実装される.図1に示すように,教材オブジェクトはプラットフォームと明確に分離されている.新たな要求仕様を実現する際には,新規の教材オブジェクトを追加して機能拡張を行う.既存コンテンツは既存の教材オブジェクトを使用して動作するため,機能追加の影響を受けることはない.このため,機能追加やカスタマイズが格段に容易になり,機能拡張性を向上できる.また,コンテンツと共に教材オブジェクトを流通させることで,新規機能を有するコンテンツについても,相互運用性,流通再利用性を確保できる.これまでに,本アーキテクチャを用いて,自己学習のための標準規格であるSCORM 2004[3]を実行する環境を構築し,本アーキテクチャの実用性を確認した[1-2]. 既存学習方略コンテンツ1既存学習方略コンテンツ2新規学習方略コンテンツ3新規学習方略コンテンツ4既存仕様1既存仕様2新規仕様3新規仕様4Obj.AObj.BObj.CObj.DObj.EObj.FObj.Gプラットフォーム要求仕様求められる教育内容教育効果の記述学習方略記述・教材定義教材内容・構造・順序関係教材オブジェクトの組合せの記述教材オブジェクト学習方略・コンテンツの実行学習者適応機能表示機能・履歴記録機能プラットフォーム実行時の教材オブジェクト連携必要な機能を後から教材オブジェクトとして追加可能既存機能には影響しない動作可動作可 図1 ELECOAアーキテクチャ (イ) Learning Design規格への適用 Learning Design (LD)規格は,様々な学習活動の形態をフォーマルに記述し,効果的な学習を達成するための方略を再利用することを目的としたものである[4-5].教授方略には中立で,独習・講義・協調学習など様々な形態の学習活動を記述の対象とするが,特に複数学習者による協調学習の記述が可能であることが特徴である.ELECOAは,基本的に独習型の自己学習支援を念頭においたもので,複数学習者によるグループ学習支援は想定していなかった.しかし,階層型のコンテンツ構造を対象としている点はLD規格と共通しており,学習の流れの制御に関しては教材オブジェクトによって自由に制御機能を実現することが可能である.そこで,ELECOAをベースにLD規格を実装するための検討を進めた.LD規格では,各学習者は学習の流れの中でコミュニケーションツールを用いて他の学習者や講師とコミュニケーションを行う.また,学習の流れは,自身の学習進捗状況だけでなく,他の学習者の学習進捗状況に応じて変化する. 研究項目: 科学研究費(基盤研究(B)) 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 多様な学習形態に適合する拡張可能な学習支援システム構成法 研究者:(○;研究代表者) ○仲林 清 千葉工業大学 森本 容介 放送大学 NAKABAYASHI Kiyoshi 情報科学部 情報ネットワーク学科 教授 MORIMOTO Yosuke ICT活用・遠隔教育センター 准教授 青木 久美子 放送大学 池田 満 北陸先端科学技術大学院大学 AOKI Kumiko ICT活用・遠隔教育センター 教授 IKEDA Mitsuru 知識科学研究科 教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      115

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