千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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高層ビルまでの距離は約3kmである.気象庁視程階級に基づき,東京スカイツリーを見通せる場合が視程階級8(20km以上50km未満),海浜幕張の高層ビルまで見通せない場合が視程階級5(2km以上4km未満),海浜幕張ビルは確認できるが東京スカイツリーは確認できない場合は視程階級6~7(4km以上20km未満)と定義した.表1に示す通り,2013年3月において,視程階級5の日は6日,6~7の日は2日,8の日は1日間存在した.図2に,視程階級別のカメラ画像を示す. AEROSによる風ベクトルおよびSPM濃度分布について,視程階級別に1時間毎のアンサンブル平均を行った.図3は各視程階級における14:00のSPM濃度分布と風ベクトルの結果を示したものである.視程階級5の日は,SPM濃度が首都圏全体で高く,特に東京湾の沿岸部で50µg m-3と高い数値を示した.また,このときの風系場は全体的に東京湾から都心へと流入する南風モードが卓越している.一方,視程階級8の日はSPM濃度が約10µg m-3と低く,風速は東京湾沿岸部で弱まりを見せているものの都心部に向けては全体的に北西寄りの風が卓越しているようである.なお,視程階級6~7の日では,上述した視程階級5と8の間のSPM濃度分布を示しており,風速・風向もばらついている. 東京湾沿岸部には,多くの工場群や道路が存在している.このことから南寄りの海風が内陸に吹き込む状況下においては,沿岸部に立地する工場や自動車から排出される人為起源エアロゾルが内陸へ流入しているものと考えられる.これに加え,海風により東京湾からの海塩粒子が流入することが,都市部の大気混濁度を上昇させる要因であると推察される. 4.まとめ 都市部上空を定点カメラにより連続撮影した結果,大気混濁度(視程)は実際の地上SPM濃度変動と対応しており,非常に大気が混濁している状態(見通しが約3km程度)ではSPM濃度が50µg m-3に達していることが確認された.東京湾沿岸都市域上のSPM濃度は風系場に大きく依存しており,都心部では南寄りの海風が内陸へ流入する場合において,沿岸部に立地する工場や自動車から排出される人為起源エアロゾルおよび海塩粒子により大気が混濁しやすくなる可能性が示唆された. 謝辞 本研究を遂行するにあたり,橋北太樹君(千葉工業大学大学院修士1年生),中村優作君(2013年度千葉工業大学4年生)に多大なるご協力をいただきました.また,財団法人千葉市スポーツ振興財団稲毛ヨットハーバー,東京工業大学神田研究室,木更津市役所,防衛大学校菅原広史准教授には機器の設置場所を快くご提供いただきました.ここに記して謝意を表します. 本研究課題に関する主な学会発表 *橋北太樹,小田僚子,菅原広史,清野直子:屋外カメラのステレオ観測に基づく首都圏に発達する積乱雲の位置・高度推定,日本気象学会2014年度春季大会,P418,2014. 参考文献 (1) 藤部文昭,坂上公平,中鉢幸悦,山下浩史:東京23区における夏季高温日午後の短時間強雨に先立つ地上風系の特徴,天気,49,pp.395-405,2002. (2) 環境省大気汚染物質広域監視システム(AEROS): http://soramame.taiki.go.jp/ 図3 (a) 視程階級5,(b) 視程階級6~7,(c) 視程階級8における14:00 JSTのSPM濃度分布と風ベクトル図(a)(b)(c)(a)(b)(c)図2 (a) 視程階級5(2013年3月5日),(b) 視程階級6~7(2013年3月19日),(c) 視程階級8(2013年3月21日)における14:00 JSTのカメラ画像.稲毛ヨットハーバーから都心部方向を撮影.図中黒丸点線は海浜幕張ビル,赤丸点線は東京スカイツリーを示す. 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      114

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