千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに 現在首都圏では,ヒートアイランドや局地的大雨,大気汚染といった都市大気環境問題が顕在化している.これらの諸問題には,隣接する東京湾が陸上大気の気温・水蒸気場や風系場に影響を及ぼしていることが指摘されている例えば1).しかしながら,都市域上での直接観測の豊富さに比べ,東京湾上の面的な大気観測事例は少なく,加えて,大気境界層全体の日・季節変動に着目した連続観測事例は極めて少ないのが現状である.以上のことから,本研究では東京湾を囲む房総半島・湾奥部・三浦半島の沿岸部に定点カメラを設置し,東京湾上および周辺陸域上の大気環境を常時モニタリングするシステムを構築した.著者らはこれまでに上記システムを用い,複数台のカメラによるステレオ観測から首都圏で発達する積乱雲の発達過程を捉えることに成功した*).本報告では都市域上の大気汚染に着目し,カメラ画像から推定される大気境界層全体の大気混濁度(視程)と地上付近のエアロゾル実測値との関係性から,大気が混濁しやすい環境場について検討した結果を報告する.なお,ここではエアロゾル実測値として浮遊粒子状物質(SPM)を対象とした. 2.観測概要 東京湾を囲む形で稲毛ヨットハーバー(千葉県千葉市),東京工業大学(東京都目黒区),木更津市役所(千葉県木更津市),防衛大学校(神奈川県横須賀市)の計4地点に屋外ネットワークカメラを3台ずつ設置した(図1).本報告では,首都圏上空の大気混濁度に着目するため,このうち稲毛ヨットハーバー(地上高約18m)に設置したカメラ画像を用いる.それぞれのカメラは1分間隔で上空大気の撮影を実施し,現在も観測を継続中である.使用した屋外ネットワークカメラはPanasonic製の BB-HCM 735であり,画角は左右69°,上下51°,画素数は1.3Mピクセルである. なお,本研究では,地上付近のSPM実測値として,環境省大気汚染物質広域監視システム(AEROS)2) により観測された,東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県のSPM濃度1時間値を使用する. 解析期間として2013年1~3月の晴れの日(日照率80%以上)について検証を行ったが,ここではSPM濃度が他の月に比べて多く大気混濁度が高かった2013年3月に着目して報告する. 3.大気混濁度(視程)とSPM濃度との関係 視程とは観測場所から見ることのできる距離の程度を表す指標であり,これにより大気の混濁具合を評価する.稲毛ヨットハーバーの地点より,ランドマークとして設定した東京スカイツリーまでの距離は約25km,海浜幕張の研究項目: 科学研究費(若手研究(B)) 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 沿岸域多点カメラを用いた東京湾上空に発達する雲のステレオ観測 研究課題名(英文): Stereo observation of cloud level using network camera images around Tokyo Bay 研究者: 小田 僚子 千葉工業大学 ODA Ryoko 工学部 生命環境科学科 助教 図1 屋外ネットワークカメラの設置地点(白丸および赤丸).東京湾沿岸部の4地点(稲毛ヨットハーバー・東京工業大学・木更津市役所・防衛大学校)に各3台ずつ設置している.海浜幕張ビル・東京スカイツリー(黄色丸)はそれぞれ稲毛ヨットハーバーからの視程階級5(約3km)および視程階級8(約25km)となるランドマークである. 稲毛ヨットハーバー東京工業大学木更津市役所防衛大学校海浜幕張ビル東京スカイツリー表1 2013年1~3月における大気混濁度の日照率80%以上での視程階級別日数視程階級56~781月1682月0723月6212014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      113

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