千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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はじめに 従来より,モデル微生物生態系であるマイクロコズムを用いてマイクロコズムを構成する微生物の個体数動態から生態系影響評価が行われてきた.しかし,マイクロコズム構成生物の個体数からの評価・解析だけではシステム全体の生態系機能に着目した影響を評価するためには不十分である.そのためP/R比(光合成による生産/呼吸量の比)のような生態系機能に基づいた規格による評価が必要となる.P/R比は安定した自然生態系においては1であることが知られており,その有効性は1970年代からOdumにより提唱されているように,測定が容易,システム全体の変化で生態系評価が可能,単一生物や人間を含む生態系の基本となっているためあらゆる系に適応可能な点等が挙げられる.フラスコマイクロコズムでのP/R比に及ぼす影響を把握することで,外来種や有毒物質等の外部負荷が自然生態系にどのような影響を及ぼすかが生態系機能の側面からも予測可能となる. 本研究ではフラスコサイズのGnotobiotic型マイクロコズムの生物相とP/R比を測定し,既往の研究結果であるNaturally derived型マイクロコズム,Stress selected型マイクロコズムにおける生物相とP/R比の測定結果から,マイクロコズムの生態系機能の比較評価および生態学影響評価の有効性の解析を行った. 2.研究方法 (1)培養方法 本研究では、Gnotobiotic型マイクロコズムとしてN type(栗原タイプ)マイクロコズムを用いた.Gnotobiotic型は完全種構成既知かつ個体数計測可能であり,同様の条件下で培養を繰り返す限り再現性に優れた安定系を維持できる特性を持ち,繰り返し実験に適している. マイクロコズムの培養は,ポリペプトン濃度を100mg/l となるように調製したTP培地(Taub+polypepton) 200mlを300ml容三角フラスコに入れ,種として安定期にあるN typeマイクロコズムを5ml接種した後,25℃,2,500lux(明 12hr.、暗 12hr.),静置条件で30日間行った. 図1 マイクロコズム内の相互作用 (2)生物相観察 構造パラメータとして,培養開始後,0,5,10,15,20,25,30日目にマイクロコズム構成微生物の個体数および生物相を,プランクトン計数板を用いて光学顕微鏡にて計測した. (3)P/R 比測定 機能パラメータとして,マイクロコズム内のDO変化をDOセンサーにより経時的に連続測定し,P(生産量),R(呼吸量)およびP/R比の推移を算出した.算出方法は各電圧をDOに換算し,夜間の酸素減少量(A/2)から,1日の呼吸量Rを求め,日中の酸素増加量Bと酸素減少量(A/2)から1日の生産量Pを求めた.その後,得られたP,RよりP/R比を算出した. 3.結果および考察 (1)構造パラメーター(生物相)による比較 Naturally derived型マイクロコズムはTP培地を使用しないため,実際の手賀沼環境水に最も影響を受ける結果となった.培養開始時環境水中には複数種の珪藻類が多くみられたが,最終的には緑藻類のChlorella sp.が最も多く観察された.このマイクロコズムでは培養開始時から生産者,捕食者,分解者が出現し,生態系が安定しつつある状態であったが,ある一定の種を除く多くの種は個体を継続的に確認できない場合があり,種の入れ替わりによる系の研究項目: 科学研究費(挑戦的萌芽研究) 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 移入種生物がもたらす生態系影響評価のためのモデルエコシステムの汎用化に関する研究 研究課題名(英文): Standardization of Experimental Model Ecosystem for Environmental Impact Risk Assessment of Alien Species 研究者: 村上 和仁 千葉工業大学 MURAKAMI Kazuhito 工学部 生命環境科学科 教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      111

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