千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに 本研究は,ヒトの前腕部運動時に筋線維から発生される筋電位信号によるロバストな動作パターン認識法に基づく実用的筋電義手制御システムの開発を目指す.筋電義手はこれまでにも研究開発の事例はあるが,ほとんど考慮されてこなかったいくつかの問題を解決することにより,実用的な筋電義手制御システムを開発する.本稿で検討する1つ目の課題は,対象となる前腕部動作の高精度識別法の開発である.また2つ目の課題として,肩や肘の姿勢変動に対するロバストな動作認識手法も検討する. 2.筋電位信号と筋電義手制御システム 筋繊維の内側と外側では約20mVの電位差がある.筋繊維は脳から発せられた命令を神経から電気信号として受け取ると,筋繊維の細胞膜は脱分極を起こし,細胞の内側と外側の電位が逆転する.これを活動電位と呼ぶが,筋繊維に沿って双方向に伝搬する性質があり,双方向に伝搬する活動電位を測定したものを筋電位と呼ぶ.本研究では人体に対して侵襲性がない表面筋電図法で測定を行う.電極を測定箇所に貼り付けた様子を図1左に示す. 図1 筋電位測定装置 測定位置は図1右のように右前腕部周りの45度間隔の8CH(チャンネル)分とする.これは手のひらや手首の動作が,主に手首から肘の間にある総指伸筋,浅指屈筋,橈側手根屈筋,尺側手根屈筋,腕橈骨筋などを使用するためである.また,実際の筋電義手の使用にあたっては少数の電極数での実現が望まれることから,識別に有効な電極位置をウィルクスΛ統計量に基づく判別分析を用いて,被験者ごとに8CHの中から3CHを選択し,このデータのみを用いて識別を行うこととする.識別対象動作は,従来研究でよく採用されている,「握る」,「開く」,「掌屈」,「背屈」,「回内」,「回外」の6動作とする. 3.ダミー変数による高精度動作識別法の開発 3つの電極から得られた筋電位の実効値に対し,いくつかのダミー変数を4次元目以降に追加し,この拡張された特徴量を用いて相対的な特性分布関係を変化させることができれば,より認識精度を高めることが可能と考えられる.今回は,互いに誤認識しやすい何組かの動作対において,実効値がより区別できるCHに注目し,適切な閾値を設定し,閾値以上であれば+X,以下であれば-Xというダミー変数を,学習データと認識対象データの双方に4次以降の要素として追加する.これにより特徴量間の距離がより広がると考えられる. 図2 閾値設計のパターン あるCHにおける実効値の分布を動作対で比較すれば,図2に示すように,Case(I):完全に分離される,Case(II):一部が重なっている,Case(III):全てが重なっている,のいずれかである.Case(I)は簡単であり,実効値の大きい動作の最小値と小さい動作の最大値の中間値に閾値を設ける.次にCase(II)では,両者の分散値を求め,小さいほうの最大値(あるいは最小値)に閾値を設定する.この場合には動作aの一部のデータに望ましくない逆符号のダミー変数が追加されることとなるが,分散の大きいデータ群であれば,それらのデータ数がより少なくなると考えられるため,このように設計する.最後に,Case(III)はそもそも区別できないためそのCHには注目しないこととす研究項目: 科学研究費(基盤研究(C)) 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 実用的な多機能型筋電義手制御システムの開発 研究課題名(英文): Development of Practical Multifunctional Myoelectric Hand Control System 研究者: 関 弘和 千葉工業大学 SEKI Hirokazu 工学部 電気電子情報工学科 教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      105

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