千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに 近年,熟練者の高齢化や少子化による技能伝承対象者の減少によって,製造業における技能伝承の問題は深刻となり,若年者に対して熟練技能を一刻も早く伝承することが求められている[1][2].熟練技能の中でも,文書化が可能で比較的習得が容易である熟練者の知識と異なり,熟練者の力加減の習得は文書化が困難であり,多くの経験や時間を要する.これまで技能伝承支援に関する研究は,Tait-Bryan角度と三次元座標を用いた熟練者の身体動作の計測手法の開発[3]や画像処理を用いた彫刻技能訓練システムの提案[4],距離正規化法による技能訓練のための工具のモデルの動きを生成する手法の開発[5]などが行われている.しかし,熟練者の力加減については考慮されていない. そこで本研究では,微妙な力加減に熟練を要するとされる金型研磨作業を対象として,視覚データ及び力覚データを記録・再生する機能を有した作業訓練システムを開発した.そして,開発したシステムを用いて,実企業で熟練者と非熟練者(訓練者)の作業を計測する運用試験を行い,その結果を分析することにより,本装置の効果を検証した.また,三次元計測装置を用いて作業者の3次元位置及び回転角度を計測し,得られた結果から,熟練者と非熟練者の研磨動作の比較を行った. 2.研究の内容 (1) 作業訓練システム 熟練者の作業時の力加減の習得を支援することを目的として,作業内容(視聴覚データ及び力覚データ)を計測し,記録された力覚データ(折れ線図)を作業動画と同期させて作業訓練者に教示することのできる作業訓練システムを開発した.視聴覚データはデジタルビデオカメラを用いて撮影し,作業台にかかる力は作業台の下に設置した6軸力覚センサIFS・90M31A25-I50(ニッタ株式会社製)を用いて計測する.本システムは,作業内容を記録するための作業計測機能と,記録した作業内容を再生するための作業再生機能を有している.作業再生機能では,訓練者が熟練者の力加減(再生データ)と自分の力加減を比較しながら訓練を行うことができるようになっている(図1). 図1 作業訓練システムを用いた作業訓練の様子 (2) 三次元位置計測装置 作業者の作業中の身体動作を計測するために,作業者の身体の各部位に取り付けたLEDマーカー(図2)を複数のCCDカメラから取り込み,画像処理することにより,作業者の身体部位の3次元位置及び回転角度を求めることのできる装置を構築した.分析には,三次元動作計測ソフトウェア Move-tr/3D(株式会社ライブラリー製)を使用した. 図2 LEDマーカーを装着した作業者 (3) 運用試験 作業訓練システム及び三次元位置計測装置を用いて,M社(岡山県機械加工企業)で行っているスウェージング加工に用いる金型の研磨作業を対象に運用試験を行った.運用試験は,熟練者1名,作業訓練システムを使用した訓練者(以下,訓練者(有))3名,使用しない訓練者(以下,訓練者(無))3名の計7名で行った.熟練者は研磨作業の経験が25年あり,訓練者(有),訓練者(無)はいずれも研磨作業は未経験である.熟練者は日時を変えて4回,訓練者(有)及び訓練者(無)はそれぞれ1回ずつ行った.対象とした研磨作業では,金型と研究項目: 科研費採択者助成金(最終年度) 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 設備保守・点検作業における熟練技術伝承支援システムの開発 研究課題名(英文): Development of Skill Transfer Support System on Equipment Maintenance and Inspection 研究者: 滝 聖子 千葉工業大学 TAKI Seiko 社会システム科学部 経営情報科学科 准教授 HeadUpperarm WristPalmFore- finger ZYX2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      88

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