※本文中の役職等は取材当時のものです。

脱炭素化、チェーン製造は 生き残りを模索

「諦めず、達成するまで」と天日さん
「諦めず、達成するまで」と天日さん

大同工業株式会社上級執行役員

天日 克広さん(てんにち かつひろ)さん

(平成3年、金属工学科卒)

 世界を脱炭素のうねりが取り巻いている。「電気自動車が注目されていますが、ガソリンで走るオートバイへもいずれ波及するはず」。大同工業株式会社(本社・石川県加賀市)の上級執行役員、天日克広さん=自動車部品事業部長=は表情を引き締める。二輪車用のチェーン製造・販売では国内トップメーカーだ。

 たくさんの部品をつなぎ合わせるチェーン。強じん性、耐久性が求められる。自社製の金型による部品づくりに始まり、焼き付け、コーティングなど「ノウハウの塊です。作業工程の効率を上げるため新しい大型組み立て機をいま導入中」と天日さん。

 そう言いながら、北陸本線大聖寺駅前にある本社から車で約10分、福田工場(加賀市)を案内してくれた。二輪や世界初の低騒音の細幅サイレントチェーン(四輪)などを国内外へ次々と出荷していく。

 地元の県立高を卒業するまで、外で暮らしたことはない。物理好きだったのと、先端技術としてセラミックスなどマテリアル(素材)に当時関心が集まっていたことから金属工学科へ。下宿とキャンパスを往復する真面目な“帰宅部”生だったが、大手スーパーの店舗配送用倉庫で、長い休みには温泉旅館で掃除や皿洗いなどのバイトを続けた。温泉地ならではのユニークな体験でもらったバイト代は生活費にあてた。

 「でも4年のとき研究室のイベントは多かったんですよ。飲み会のことですけど」と笑う。非鉄系素材の強度をテーマに卒研をまとめ、一人っ子ゆえ就職は郷里の№1企業・大同工業を選んだ。そのころ4代目社長だった新家康三・現会長(71)も同じ金属工学科の先輩と知り、びっくり。

 社内では「いまに至るまでずっと生産技術畑」という。コンベア、コピー機など事務機器、国産初の「いす式階段昇降機」(1988年)といった福祉機器、エスカレーターなどチェーンの用途は広い。車いす用の昇降機は鉄道の駅でよく見かける。

 転機は入社16年目の2007(平成19)年から4年間のブラジル滞在だろう。二輪では世界首位のホンダの現地生産にあわせ、部品サプライヤーとして赤道直下マナオスにゼロから新工場を立ち上げ、経営も。「日本人は私と通訳(ポルトガル語)、約180人の従業員のうち日本語の分かる日系人も2人だけ。日本なら1カ月ですむのに3倍もの時間がかかる。働き方の文化が違う。ならば、まずは2カ月間でこなせるよう訓練し、次は1カ月で…と社員教育をしていきました」。

 そのストレスは日系企業の駐在員仲間とゴルフで発散した。2年目に奥さんを呼んだが、多様性を受け止める神経はなかなかしぶとい。製造ラインの動き出したのを見て帰国し、古巣の生産技術部門へ。主に自動車部品事業に関わり、19年に上級執行役員となった。

 コロナ禍ではご多分にもれず、需要は落ち込み、苦労した。「このところ持ち直してきた」というものの、EV(電動化)という新たな課題が迫る。ホンダも40年までに脱エンジンの方針を掲げているが、「モーターの時代になると、チェーンは不要になる。10年もすれば、その波はオートバイにも来る。生き残り戦略を模索中です」(天日さん)。

 一つとして、自動走行のUVC(紫外線)除菌ロボットを開発。実証機を加賀市医療センターへ寄贈(21年11月)、宮元陸市長は「大同工業の技術力普及の足がかりになることは非常にうれしい」と歓迎した。

 「とにかく自分の思い・願いを諦めることなく、達成するまで続ける、これが私のモットーです。学生さんもその意気で勉学を」と後輩に期待する。まさに一念天に通ず、だ。

NEWS CIT 2022年2月号より抜粋