※本文中の役職等は取材当時のものです。

ネットが社会を変える 世界企業の先兵役

「“笑う門には福来る”をモットーに」と仁王さん
「“笑う門には福来る”をモットーに」と仁王さん

シスコシステムズ合同会社 公共・法人事業東日本事業部長

仁王 淳治(におう じゅんじ)さん

(平成10年、工業経営学科卒)

 あらゆるモノがネットにつながるIoT時代が近未来に迫る。世界でその最先端を走る米通信機器大手シスコシステムズ(略称・シスコ)の日本法人で東日本エリアを担当する仁王淳治さん。「オールデジタル社会は働き方も暮らし方も変えていく」と語る口調は熱い。

 東京・六本木の高層ビルにある日本法人オフィス。社員は多国籍、英語が飛び交う。「出身国ですか?さぁ、あまり気にしていないので」と仁王さん。国籍より、なにをするかの方が大切なのだろう。「シスコの企業風土はオープンコミュニケーション。もう少し英語をやっておくべきでした」と苦笑する。

 静岡市で生まれた。電子部品会社にいた父の転勤ですぐ千葉県へ。自宅から自転車で通える本学工業経営学科を選んだ。もともとCMに興味があったという。20~30秒の短い時間に何を盛り込み、いかに人を引きつけるか、と。

 高校のころ部活で慣らしたサッカーのチームを学科の友人らと組んで汗を流し、バイト貯金をはたいた中古車でドライブを楽しんだ。高校のころ部活で慣らしたサッカーのチームを学科の友人らと組んで汗を流し、バイト貯金をはたいた中古車でドライブを楽しんだ。

 4年目。卒業研究のテーマは「広告のIT活用のビジネス効果」。卒研に工場実習は付きもの。しかし“CM工場”があるはずもない。寛容な指導教官の理解を得て論文だけで無事パスし、インテグレーター企業に社会人としての第一歩を印した。

 インテグレーターはITサービス会社だが、もっぱらお客のニーズに応じ個別のサブシステムをセットしていく。6年半勤めた。「技術の応用開発を含め、仕事の幅を広げたい」と2004年、シスコへ移った。

 ルーター(中継装置)メーカーとして出発したシスコは、M&A(合併と買収)手法も駆使して成長した世界最大級のコンピューターネットワーク機器提供会社だ。製造のほか、ソフト開発、とかく話題のサイバー攻撃に対するセキュリティーソリューションなど、世界シェアは6割を超える。主に国内の製造業の事業部長をしてきた仁王さんは昨年8月、東日本事業部長に就任。大企業から中小企業まで、さらにデジタル化を視野に入れ始めた自治体や地域づくりなど多彩だ。北海道から甲信越までカバーする。

 ひとつのミスが業務ラインを止めかねない。前の会社でのほろ苦い教訓……。

 「自動車メーカーに納めた機器がほぼ100万回に1回の確率でしか起きないトラブルに見舞われた。協力して直したが、言われました。『デートに行こうとして、もし車が動かなかったら、当人にはその1回がすべてですよ』って。以来、お客にとって唯一無二の商品なのだと肝に銘じて慎重に準備し、部下にもそう言っています」

 それにしても、コンピューターの性能は指数関数的に進化し、データ容量も激増している。「アイデアの朝令暮改など珍しくない」と仁王さんは、こんな例をあげた。

 ▽リオ五輪(2016年)で米メディアは競技後の選手と本社を映像回線でつなぎ、スタジオからインタビューした。おかげで某TV局の派遣スタッフは北京五輪(2008年)のほぼ3分の1に。「でも、ここぞという種目では直接マイクを向けます」(仁王さん)。

 ▽海外の生産工場からの送信映像を見ながら、日本で故障の修復指示ができる。「災害時の医療の遠隔診断、スポーツ選手に対する遠隔コーチ、海外有名教授の授業聴講も容易です。シスコ社員は自宅で社内のウェブ会議に出たり、採用面接も出先のオフィスと東京とを結んでやります」(同)。

 まばたきする間もなく時と距離の壁を乗り越えてしまう。一方で効率アップに伴う合理化は避けえないだろうが、「その対策は別に考えつつ、時代に取り残されないことが重要」という。テレワークなど社員の働き方改革で厚労大臣賞を受けたほか、今年は「働きがいのある会社」ランキングで大企業部門のトップに輝いている。

 忙しい日々にストレスはたまりそうだが、「“笑う門には福来る”をモットーに楽観的に構えています」。ゴルフや部下とのアルコール付き会話でストレスを流す。奥さんと子ども2人の4人家族。

NEWS CIT 2018年8.9月号より抜粋