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※本文中の役職等は取材当時のものです。

廃タイヤ商品、エコ押し付けず
かっこよく、社会のために

「努力3割、運7割」と堀池さん
「努力3割、運7割」と堀池さん

モンドデザイン社長

堀池 洋平氏(ほりいけ ようへい)氏

(平成15年、工業デザイン学科卒)

 大型トラックの廃タイヤチューブがリュックやボディバッグに変身・・・・・・こんなリサイクルを思いつく人はいるかもしれない。しかし、イザやろうとすれば厄介で、多くは二の足を踏むだろう。「でも、成せば成るものです」。座右の銘でもあるこの言葉通り、弱冠31歳の若き社長はベンチャー街道をばく進中だ。

 企業家にはとかくギラギラしたイメージがつきまとう。この人には、しかし、不思議にそれがない。長身から発せられる声はどちらかといえば穏やかで、大学院の研究室で院生と話しているようなムードなのである。

 東日本大震災で甚大な被害を受けた福島県・浜通りの生まれ。さいわい実家は海岸線から離れ、被災は免れた。県立高校のころ「英語と数学が得意だった」のと、工業デザインをやりたくて本学へ。サークル活動には加わらず、講義とバイト、そして図書館に足しげく通う日々。神社・仏閣の建物、茶道、「線は線か、それとも点のつながりか」といった頭の体操になる思想系の本をたくさん手に取ったという。

 その合間に学生生活も楽しんだ。バイク(250cc)で国内各地を回り、3年生のときは友人と欧州を1カ月の2人旅。イタリア、スイス、ドイツなどを巡った。「年配の女性がショッピングしながら、『この柄いいわね』なんて会話している。デザインを楽しんでいるのに感心しました」。目の向けどころが違う。

 「単位数ぎりぎりで卒業し」、在学中からバイトで縁のあった都内の広告・企画会社へ身を落ち着けた。チラシのデザインなど細かい仕事もこなした。その傍ら、起業に思いをめぐらせていく。

 エコが叫ばれる時代だ。キーワードは、かっこよく、かつ社会のためになること。考えたすえ未開の廃タイヤへたどりついた。素材はゴム。利用法はいろいろあるだろう。でも、10年は走りこんだタイヤチューブをなにに?

 (財)タイヤリサイクル協会、ハウスクリーニング会社、食品トレー洗浄工場、町の縫製工場などを訪ね歩く。廃タイヤの裁断・洗浄・加工の工程が見え、リュックへたどりつくまで2年かかったという。チューブはまだボコボコし、それでいてテカテカ光り、独特の質感をかもし出す。防水機能もある。

 「おしゃれ志向の女性はやはり皮製品を好むでしょう。しかし、アウトドア派の男性は引きつけられる」。30代男性にターゲットをしぼって2006年秋にモンドデザインを設立。翌春、満を持して「SEALブランド」(SEALは「印」の意味)の販売をスタートした。都内であった展示会へも出品した。国内初の廃タイヤ商品という意外性は評判を呼んだ。

 ただし、エコは前面に出さない。「押し付けがましくなるから」。その一方で、売り上げの1%を世界自然保護基金(WWF)に寄付。またSEALブランドをひとつ買ってもらうごとに、樟子松(別名モンゴリマツ)の苗木1本を「緑の地球ネットワーク」に贈っている(砂漠化する中国の植林協力にあてる)。スタッフ5人の会社は、なかなか周到である。

 広告デザインなどの仕事を請け負いながらのビジネスとはいえ、1期目からずっと黒字基調だというから、すごい。今年はこの素材をもとに静岡県のげたの老舗とコラボし、雪駄をモチーフに下駄を売り出した。雑誌にも紹介された。

 長い不況に大震災が重なって、いま就職の大氷河期。学生から選べる状況にはない。「だが、どんな会社であれ職種であれ、採用されたということは、その人は見込まれたわけです。となれば、好きでない仕事でも、好きなことができるようになるまでとどまってがんばるべきでしょうね。成功は努力3割、運7割です」。先輩の片鱗をチラリとのぞかせた。

 現在、会社のアイテム数は約70点。全国約80店舗で扱ってくれている。ジェトロを通し中国の見本市などへ出展したほか、最近になってスイス、アメリカ、シンガポールなどでも販売を開始しており、これからは子ども、主婦層を対象にしたベルトやくつなど身の回り品へ広げる構想を練っている。「内容を充実させ、販路を世界へ拡大していきたい」と意気込む。将来の夢は大きい。

NEWS CIT 2011年9月号より抜粋