• トップページ
  • 視聴者の理解を助ける テレビ番組からウェブまで

※本文中の役職等は取材当時のものです。

視聴者の理解を助ける
テレビ番組からウェブまで

「友人をつくり、好きなことを徹底してやってほしい」と、藤井氏
「友人をつくり、好きなことを徹底してやってほしい」と、藤井氏

日本テレビCGデザイナー

藤井 彩人(ふじい あやと)氏

(平成8年、工業デザイン学科卒業)

 数十人のスタッフがパソコン画面をにらんでアイデアを絞る。東京・汐留(日テレタワー)にある日本テレビ技術統括局制作技術センターのコンテンツ技術運用部。訪れたのは4年に1度のサッカーW杯南アフリカ大会と参院選(7月)を間近にひかえたかき入れ時。同部に属する本学工業デザイン学科卒の藤井彩人さんは、「今がピークです」と笑った。

 サッカーは、最もエキサイティングなスポーツといわれる。視聴者により面白くと、日テレは2005年冬、中継番組に使うスポーツグラフィックスを全面的にリニューアルした。試合中に次々変わる得点や試合時間、メンバーリストやポジションなど豊富なデータを伝える、あの表示だ。中心になったのがCG(コンピューターグラフィック)デザイナーの藤井さん。

 その視認性、機能性、デザイン性は高く評価され、優れたデザインやアイデアへ贈られる2006年度グッドデザイン賞(日本産業デザイン振興会主催)に輝いている。

 愛知県生まれ。父がデザイン事務所を開いている関係で小さいときから美術やデザインの世界になじんできた。美術系の大学を志したこともあった。しかし、機械いじりが好きだったことから、工業意匠を学ぼうと本学の旧・工業デザイン学科(現・デザイン科学科)へ。

 「在学中の思い出?ジャズとパソコンです」。高校時代に好きだったロックからジャズへと方向を少しかえ、軽音楽部でジャズピアノを楽しんだ。20曲ほど作曲も。毎日通った津田沼キャンパスの部室棟の中央には『壁画のオブジェ』がある。「あれ、実はボクの作品です。恩師の井村五郎先生の呼びかけでコンペを行い、同級生みんなで制作しました」。まことに積極的である。

 パソコンとの関係においても姿勢は同じ。「マッキントッシュを使い、フォトショップを1日中やっていたこともありました」。2年のとき、塾講師のバイトで貯めた資金などを元に、当時50万円近くした機種を買い、下宿で動かした。研究室にさえ2、3台しかない時分だ。

 筆で塗り、写植で文字を切り張りする技術はデザイナーにとって不可欠だったが、すごい時間を必要とした。それが何度でもやり直せる。「頭にあることがすぐ形になる。試行錯誤できるので発想がどんどん広がった。とても将来性のある技術だと直感しました」。4年次の寺井達夫研究室では、当時は珍しかった動画を使ったプレゼンテーションもした。

 就職にはそれらのテクニックが役立った。最初、テレビ朝日系列のデザイン会社に。そこに5年いて、2001年に日テレへ。

 日本テレビでは番組のオープニングタイトルをはじめ、情報表示のデザイン、ウェブサイト制作まで行っている。コンテンツづくりからオンエアまでの手間は並大抵ではない。「5秒?10秒しか画面に流れないというのも珍しくない。その間に視聴者へどう理解してもらうか」。見やすさ、分かりやすさが勝負の分かれ目。その工夫がグッドデザイン賞へ結実した。

 藤井さんのユニークなところが、もうひとつ。日本テレビでは入社5年以上の社員には社外研修のチャンスが与えられる。ただしプレゼンテーションで役員を納得させなければならない。会長はじめ役員の前で言った。「別の会社でデザインの腕を磨きたい。1年間アメリカに行かせてほしい」。役員はみな首をかしげた。研修制度を利用し他社で仕事をするという前例はなかったためだ。しかし、熱意は伝わり、1年間ニューヨークにある広告会社に籍を置くことになった。

 「すべてに渡ってセンスがいい」と米国のデザインレベルに舌を巻く。その成果をもとに、帰国後はデザイン業界の講習会やセミナーで講演もこなす。

 「友人をつくること、好きなことを見つけ、徹底してやる」。後輩たちに、こうアドバイスしている。

NEWS CIT 2010年7月号より抜粋