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※本文中の役職等は取材当時のものです。

“不断の探求”人生変える
初の女性部長はハーブが大好き

「人生には無駄もある。でもヒントは何かに…」と語る木村部長
「人生には無駄もある。でもヒントは何かに…」と語る木村部長

矢崎総業(株)技術研究所
解析技術センター材料分析部部長

木村 真澄(きむら ますみ)氏

(昭和63年 工業化学科卒業・旧姓杉本)

 発明のヒントはふとしたことから浮かぶ。通勤のマイカーの運転席に座る時。相模湾を臨む自宅マンションでアロマの湯にひたる、そんなくつろぎの時。難解な材料分析法のアイデアが顔を出す。タイミングをとらえ、前から後ろから見て、それに気づくかどうか、人生を変えるポイントは不断の「興味」、「探求」の継続だ、と確信する。

“ワイヤーハーネス”という高度にシステム化された自動車用組電線の生産でトップクラスを誇る矢崎総業。世界で約21万人を数える従業員の中で、ここ静岡県裾野市にある材料分析部に今年9月21日、社内で初めて誕生した女性部長。会社は男っぽいイメージに溢れるが、そこに女性の視点がライン部長として注がれる。

 リーダーから所属長への昇格は初夏のころ、上司から話があった。ちょっと待ってくれ――逡巡した。やりたい研究もあった。3カ月の猶予をもらい、考えた。もっと、視野を広げよう。今、11人の部下を引っ張る。環境への配慮が今、自動車関連機器メーカーにも強く求められる。有害物質を出さない、地球温暖化ストップへCO2を極力規制する。自動車関連機器への、鉛、六価クロム、水銀といった有害物質の厳しい排除を欧州市場は要求する。

 三島市の中学生時代から理科、数学が好きだった。「数学は答えが一つ、明解なのがいい。化学は素材の分析がきっと人の役に立つ、と考えた」。理科の教師だった父の影響を知らず知らずのうちに受けていたのかもしれない。女子高の県立三島北高校の進学クラスでは、ためらいなく理系組。約300人中、実質40人ほどの理数系大学を目指すグループにいた。

 分析グループは膨大な矢崎製品のチェック機構の最前線に立つ。揮発性有機化合物(VOC)をはじめとした環境負荷物質の分析技術が社内の大きな期待を担う。「今は元素から環境を見ている状況です。しかし、有機化合物の観点から環境を見直すときが来るはず。それに備えて社内的には、樹脂材料への評価技術を確立したい」と将来を見つめる。

 今年に入って研究のアイデアがひとつまた、実を結ぶ。材料分析をより効果的にするため、極めて薄いメッキの分析方法を新たに見つけた。部品のメッキ部分を母材からはがす技法の発明だった。現在、特許申請中。社内では本部長賞が出た。これまでにも環境分析関係の特許は4件ある。「アイデアを思いついたら翌日、実際やってみる、相談する。人生には無駄もあります。でも、あるヒントは何かに必ずつながるんです」。

 大学進学は「東京、東京しているところは避けた」といって千葉工大へ。一人暮らしのスタート。そこで同じ歳の将来の夫と出会う。軟式テニス部の1年生同士。夫は電気工学を学ぶ。在学中はさして意識しなかったが、卒業後、結婚し今は6歳の保育園男児との3人暮らし。出産後、1歳まで取れる休暇も返上、6カ月で復職した。7時半には自宅を出て、0歳の愛児を保育園に送り届けての出勤だ。「もうちょっと一緒にいたかった」思いを研究の仕事で抑えて。「部長になったので少子化防止にはもう、ちょっと」と笑う。

 植物から抽出したエッセンシャルオイルを組み合わせるアロマも勉強。3年前にはハーブの香りで心と体を癒すアロマテラピーのインストラクターの資格も取った。将来は人を癒すようなセラピストも目指したい。頑張りは続く。

 そんな卒業後の生き方を決めたのは、4年生の卒論書きで世話になった女性講師の生き様を真近にみたことから。「専業主婦でなく、共働きを通す。これでなくちゃ、と思う。早期に仕事に復帰したのも、この女性講師の存在が頭にあったから」。

 子供が生まれるまで7年間も、夫と海外の旅を繰り返し楽しんだ。来年には親子3人一緒の旅も復活できそう。今から楽しみにしている。

NEWS CIT 2008年12月号より抜粋