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※本文中の役職等は取材当時のものです。

誠心誠意、公明正大が信頼の要
親や会社・上司への感謝忘れない

『自分で考えろ』と指導する吉崎さん
『自分で考えろ』と指導する吉崎さん

YKKグループ YKKAP(株)副社長

吉崎 秀雄氏

(昭和44年 工業化学科卒業)

 ファスナーでは世界的な企業、YKKを知らない人はいないほど有名。国内でのファスナーのシェアはなんと90%。海外でも45%を占めており、いまは建築関係のアルミ・サッシ製造部門でもシェアを大きく伸ばしている。

 このYKKグループ建材事業の中核会社YKKAP(株)副社長が吉崎秀雄さん=昭和44年3月工業化学科卒業。そこで、製造と技術の本拠地、黒部事業所(富山県黒部市)を訪ねた。同工場ではファスニング製品、建材製品、精密機械・装置・金型を製造している。

技術携え、地元企業に

 吉崎さんは「私は魚津(富山県)の生まれなので、就職は地元の企業に……と考えていました。YKKを選んだのは、大学で学んだ工業化学の技術を樹脂材料やファスナーのメッキ、染色に生かしたいと思ったから」と本学卒業後、YKKに入社した経緯を語る。また、「父親が病弱だったので、高校に通いながら働こうと考えて、定時制高校も受験した」とも。

 だが、県立魚津高校から千葉工業大学に進学。「親には千葉まで行かせてくれたという感謝の思いがあり、大学では高校時代よりも真面目に勉強しました。中山競馬場でアルバイトもしましたよ」と笑い飛ばす。寮には入らず、西千葉で下宿生活をした。

 YKKに入社した当時は会社自体が伸びる時期で、最初の配属はサッシ製造部門だった。「私と富山大学の同じ工業化学系の2人が回された。一貫生産の中では材料がキーポイント。炉の中にあるアルミ合金の分析を瞬時にできないか――という『炉中分析』を研究して、材料の品質安定化を図った。現場研修をしながら仕事をやらせてもらいました」と研究即実践の当時を語る。

 公害防止法が制定された昭和46、47年頃、高度経済成長に伴い、産業廃棄物の再資源化が叫ばれるなど、技術開発やプラントの設計が次の担当となった。その後、オイルショックによるエネルギー省力化、排ガス再利用などを進めた。そして、近年需要が増したサッシの多色化が進み、アルミの表面処理技術を任された。

入社3年でプロになれ!

 「モノづくりの現場、モノづくり以外のインフラ部分も含めた工場づくりのため、会社からは非常に大きな投資を任され、それが大きな自信になり、また達成感がありました。そこには『自律』という目標ができ、自分が取り組んだものは挫折はできないという信念がわいてきました。若い時にチャレンジさせてくれた会社や職場の上司のおかげです」と感謝の気持ちを忘れない。

 だからこそ、吉崎さんは新入社員に対しては、「『自分で考えろ』とよく言います。課題を解決する力を早く身に付けて『プロになれ』、それは3年間だ…とも。そのためには、仕事上にはいろいろなプロセスがあって答えは一つではない。多くの経験やコミュニケーション力が知恵として身に付けば、人とは異なった力が付くのではないか」とアドバイス。「でも、毎年優秀な新入社員が多く入ってくるのだが、なかなか思うように育ってくれない」と苦笑。

 吉崎さんは今でも吉田忠雄先代社長(故人・YKK創始者)の『道場の一刀流では駄目だ。野戦の一刀流になれ』という教えを守っている。

中国への行き来で超多忙

 「もう一つ言いたいのは、人間として『正義感を持つこと』、『誠心誠意と公明正大』の信条を持って、部下や社員、取引先と付き合うのが重要。わが社の場合、海外70カ国で事業を展開しており、特に人種・宗教・言葉が異なるが、どこでもリーダーになるためには、そういう気持ちで仕事をしないと人はついて来ません」。多くの経験から信念として発せられる言葉だ。

 部下には「短期的な実績評価だけでなく、同時に成果につなげるための行動『成果行動』を評価するのが必要」という気持で接している。

 いま同社は、サッシ部門で従来のフレーム(部材)づくりからエンドユーザー視点でのサッシの窓事業に取り組んでいる。吉崎さんは製造部門と製造技術担当副社長だが、中国の担当責任者でもあり、月に1回は中国へ出掛ける超多忙な毎日を送っている。

*  *  *

 YKKには、技術屋のリーダーで昭和48年電子工学科卒業の野口康博さんや、同53年機械工学科卒業の辻利彦さんら本学出身者が数多く活躍している。

NEWS CIT 2006年12月号より抜粋