NEWS CIT ニュースシーアイティ

2019.10.15

過電圧の測定技術で


脇本研2人が受賞
優秀発表賞の野口さん(左)と奨励賞の澤田さん
優秀発表賞の野口さん(左)と奨励賞の澤田さん
 電気学会の令和元年電力・エネルギー部門大会(9月3〜6日、広島市の広島工業大・五日市キャンパスで開催)で、若手研究者の優れたポスター発表に贈るYPC(Young engineer Poster Com
petition)優秀発表賞に野口絵理華さん(電気電子情報工学専攻修士1年、脇本隆之研究室)、同奨励賞に澤田幸希さん(同)が選ばれた。
 電力系統は雷害などの高電圧・大電流から守られなければならない。2人は大電流計測技術のパイオニアの1人・脇本教授の研究室でインパルス電圧の計測や高電圧放電現象の解析を研究している。
 発表内容と感想は次の通り。
●野口絵理華さん
「急峻波インパルス電圧波形パラメータ評価に関する一考察」
 急峻波電圧とは、ガス絶縁開閉装置内や電子機器で生じる急な過電圧。測定には分圧器や測定器が必要だが、大型の分圧器になると応答が遅く、正確に測定できない。野口さんは測定波形と既知の応答波形をデコンボリューションで算出する技法で、波形評価のアルゴリズムを検討した。
●澤田幸希さん
「2kV級雷インパルス電圧測定システム用校正器の開発」
 国家標準級雷インパルス電圧測定システムの校正を行うための定格電圧10kV級校正器の開発を目標とした研究を行っており、今回は定格電圧2kV級校正器の試作とその性能評価を行った。
 「発表練習や質疑応答を脇本先生にご指導いただきました。共同研究の皆さんや共に参加した野口さんに感謝しています。受賞は初めてでうれしく、多少ながら自信を持つことができました」

屋上緑化 排水遅延効果は…


中村さん優秀講演賞
 日本材料学会関東支部の2019学生研究交流会(9月21日、横浜市の慶應大・矢上キャンパスで開催)で、中村沙彩さん(建築都市環境学専攻修士1年、石原沙織研究室=写真)が「屋上緑化の土壌と植物が雨水排水遅延効果に及ぼす影響」をポスター発表し、優秀講演賞を受賞した。
 石原准教授の研究室では、建物を長寿命化させる内外装仕上げ材料や、屋上・壁面緑化、漆喰や畳などの伝統材料を研究している。屋上緑化については、集中豪雨で都市型洪水が増す今、雨水排水にどう遅延効果を及ぼすのか確かめる必要がある。
 中村さんは土壌の水分吸着力を測るpF値と土壌の厚さ、植物が降雨を遮断する効果を測定。▽土壌はpF値や土壌厚が増えると雨水排水の遅延効果が増す▽植物は降雨時の実測と模擬植物を用いた人工降雨実験から、葉面積及び植物の高さが遮断降雨量に及ぼす影響が大きく、緑被率と葉の重なりによる影響は小さい――などを計測で裏付けた。
 安定データが取れるまで実験を続け、雨中の夜中に測定したり、終電で帰宅したり。発表ではデータの提示方法に頭を悩ませたという。
 中村さんは「ポスター発表は初めてで緊張しました。他大生の発表が素晴らしく、私の受賞は奇跡だと思いました。支えてくださった石原先生や仲間に感謝しています」と語る。

浮遊技術でメモリ材料追究


早坂さん努力賞
 日本鉄鋼協会の第178回秋季講演大会(9月11〜13日、岡山市の岡山大・津島キャンパスで開催)学生ポスターセッションで、早坂燿さん(機械サイエンス専攻修士1年、小澤俊平研究室=写真)が「希土類・遷移金属酸化物における六方晶と斜方晶の関係」を発表し、努力賞を受賞した。
 従来のメモリは、電気の+と−や磁石のS極N極を制御して記録している。希土類元素とマンガンの酸化物である希土類金属マンガナイトRMnO3の結晶構造が六方晶のとき、電気と磁気に相互関係があり、メモリの新材料として期待される。
 この材料は電気でS極N極を、または磁気で+と−を制御できるが、希土類元素がDy(ジスプロシウム)であるDyMnO3では、生成プロセスによって六方晶と別の結晶構造の斜方晶が共存する場合、また斜方晶のみの場合が報告されており、生成条件が不明だった。
 早坂さんは、小澤研で取り組むガスジェット浮遊技術を活用。材料を浮かせた状態で、融点よりも温度を下げる過冷却を制御、また熱分析によってその生成条件を明らかにした。
 発表の際は、内容を分かりやすく伝えるため文字サイズや図の色使いを工夫したという。
 早坂さんは「他大学・企業関係者の前での発表は緊張しましたが、努力が評価され、うれしく思います。小澤先生と栗林一彦先生(附属研究所客員研究員)に感謝します」と語った。

農家のGAP取得を援助


木藤さん学生奨励賞
 情報処理学会のコンシューマ・デバイス&システム研究会(8月29、30日、神奈川県三浦郡葉山町の葉山港管理事務所で開催)で、2019年度学生奨励賞(該当1件だけ)に木藤風花さん(知能メディア工学科4年、森信一郎研究室=写真)の「現代中堅農家の海外進出を支援するシステムの開発に関する研究」が選ばれた。
 森教授の研究室では、センサーネットワークやスマートフォンなどの情報通信技術を活用して、よりよい暮らしを創造する研究が行われている。
 木藤さんは、国内農家が良質な作物を生産しているのにGAP(農業生産工程管理の認証)を取得しないために、輸出や来年の五輪大会での提供で不利なことに着目。
 GAP取得に必要な生産過程などの記録提出にパソコンやスマホを使った記録ソフトが販売されてはいるが、入力項目が200余と多く、導入コストも農家の負担になっている。
 そこで木藤さんは、生産作業の際、腕・腰・脚にウエアラブル端末を装着し、スマホのセンサーから作業を推定して記録の簡易化を図るシステムを提案。移動・休憩・箱詰め――の作業で計測した初段階の実験結果をまとめた。
 全体を体系的に整理し俯瞰的に説明することが難しく、期間も短かったので成果を出すのに苦労したという。
 木藤さんは「学会発表は初めてで緊張しました。受賞できると思っていなかったので、大変うれしいです」と語った。

色変化素材へ薄膜づくり


中山さんにポスター賞
 応用物理学会の2019年秋季学術講演会(9月18〜21日、札幌市の北海道大で開催)で、中山佳之さん(機械サイエンス専攻修士1年、井上泰志研究室=写真)が「反応性スパッタリング法および反応性蒸着法による微絨毛構造化In Al N膜の作製」をポスター講演し、「Poster Award」を受賞した。
 中山さんは井上教授のもとで薄膜材料工学、プラズマ材料科学により新奇物質の創成を探る。
 窒化インジウム(In N)薄膜は、表面吸着物の交代に伴い、明褐色から暗褐色へ可逆的な色変化(吸着誘起型エレクトロクロミック=AiEC)現象を示す。AiEC現象は、電子が存在できない領域(バンドギャップ)幅が関係するMoss-Bursteinシフトに由来するため、In NにAlを添加することでバンドギャップの拡大に伴うEC反応波長領域の短波長化、つまり実用面で有用な「無色から有色へ」のAiEC現象が期待できる。
 中山さんの研究は、薄膜を堆積させる手法である反応性スパッタリング法と反応性蒸着法に斜め堆積(GLAD)法を適用して微絨毛構造化In Al Nを作製し、それぞれの成膜方法で得られた試料を比較することで、In Al N薄膜のAiEC特性が最適な成膜方法を模索。研究室仲間とまとめ方を議論し、ポスターに集約させた。
 中山さんは「受賞するとは思っていなかったので驚きました。井上教授のおかげと感謝しています。さらに研究に励みたいと思います」と喜んだ。