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2019.7.15

リュウグウの地下物質採取
窮地を救ったカメラ


噴出物「適地」捉える
山田・主任 研究員開発
 「100点満点でいうと1000点」。探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」への再着地を完璧に成し遂げ、世界で初めて地下物質の採取にも成功したとみられることは、日本中を歓喜と感動の渦に巻き込んだ。そして、ここでも本学惑星探査研究センター(PERC)が開発に関わった観測機器や研究が大きな貢献を果たした。
㊧光学航法カメラ(ONC)が緊急離脱時の自動撮影で捉えた、噴出物の堆積が期待できる領域(CO1―Cb)。人工クレーターの中心から約20メートルで、再着地点となった。㊨その後の降下観測で撮影されたCO1―Cb付近の詳細画像。「積み岩」などとニックネームを付けて高さなどを詳しく分析している=©千葉工大、JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、明治大、会津大、産総研 ㊧光学航法カメラ(ONC)が緊急離脱時の自動撮影で捉えた、噴出物の堆積が期待できる領域(CO1―Cb)。人工クレーターの中心から約20メートルで、再着地点となった。㊨その後の降下観測で撮影されたCO1―Cb付近の詳細画像。「積み岩」などとニックネームを付けて高さなどを詳しく分析している=©千葉工大、JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、明治大、会津大、産総研
㊧光学航法カメラ(ONC)が緊急離脱時の自動撮影で捉えた、噴出物の堆積が期待できる領域(CO1―Cb)。人工クレーターの中心から約20メートルで、再着地点となった。㊨その後の降下観測で撮影されたCO1―Cb付近の詳細画像。「積み岩」などとニックネームを付けて高さなどを詳しく分析している=©千葉工大、JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、明治大、会津大、産総研
 「はやぶさ2」は4月5日に衝突装置(SCI)を用いて「リュウグウ」の表面に直径約10メートルの人工クレーターを形成し、地下からの噴出物を周囲にまき散らして堆積させることに成功した。SCIの衝突目標点は「はやぶさ2」が安全に着地できる比較的平坦な領域として2回目の着地が想定されていた場所のすぐそばに設定されており、SCIはほぼ狙い通りの地点に命中した。
 このSCIの開発と科学的検討に和田浩二主席研究員・副所長代行が関わっている。
 ただ、ここで問題が起きた。あらかじめ決めた探査機の着地候補領域は、その後の観測で噴出物の堆積量が極めて少ないことが分かり、地下物質採取の成功に「?」が付いたのだ。着地領域を噴出物が厚く堆積している別の領域に変更すればよさそうなものだが、そのために必要となる岩石の位置や大きさを正確に把握するための高解像度画像がない。
 この窮地を、山田学主任研究員が開発と研究に携わった光学航法カメラ(ONC)が救った。
 当初の着地候補領域に対して、5月16日に行われた探査機の降下運用がトラブルで中断したことがある。高度を測るレーザー高度計(LIDAR)の感度を自動で切り替えた瞬間、実際には50メートルの探査機の高度を、瞬間的に約6000メートルと検知。「異常事態発生!」と自律的に判断した探査機は緊急上昇した。
 LIDARのプログラム変更の仕方に問題があったことが原因だった。しかし、このとき緊急上昇する探査機から、後に着地することになる豊富な地下物質の堆積が期待される領域の高解像度画像をONCが撮っていた。山田主任研究員が万一のときのために組み込んでおいた「緊急離脱時の自動撮影」プログラムがここで働いたのだ。
 山田主任研究員は2010年5月に打ち上げられた金星探査機「あかつき」で、メーンエンジンの故障から探査機が予定軌道に入れなかったとき、長期間1枚の画像も撮れなかった苦い経験がある。
 この経験が今回の“万一の備え”につながった。そして緊急上昇する探査機から撮ったこのときの画像が、新たな着地領域決定の決め手となった。
 「山田さんがいなかったら、2回目の着地も噴出物採取もなかったと言っても過言ではないくらい」(和田主席研究員)
 しかし、これで問題が全て解決したわけではなかった。「はやぶさ2」の安全な着地には着地点に高さが70センチ以上の岩石がないことが条件だが、新たな着地領域に転がっている岩石の高さがいまひとつ解明できていなかった。そこで再び山田主任研究員の出番がくる。
 6月13日に行われた探査機の低高度降下観測運用でONCが撮影した最高解像度の画像28枚を使って、着地候補領域付近の克明な画像を合成した。山田主任研究員が作ったこの画像を使って、チームは着地目標地点のすぐそばにある岩石でも高さは65センチであることを割り出した。
 「はやぶさ2」は7月11日午前10時過ぎ、狙い通りにこの地点に着地。サンプラーホーンを地表に押し当てて弾丸を撃ち出し、舞い上がった噴出物の採取にも成功したと見られている。
 この着地直後、サンプラーホーンの先端付近で岩石が飛び散る写真が、「着地成功」の記者会見の席で発表された。この写真を撮った「CAM―H」カメラは和田主席研究員と石橋高上席研究員が開発に携わった分離カメラ(DCAM3)と同じシステムに属している。
 和田主席研究員は世界初のSCIによる人工クレーター形成で得られた実験データをもとに、天体衝突現象の科学的解明に挑んでいる。その最初の研究成果を8月にも学術誌に投稿する予定だ。
テレビが取材
 「はやぶさ2」プロジェクトでのPERCの活躍はマスコミも注目、報道した。
 NHK総合テレビは2回目の着地を翌朝に控えた7月10日夜の「ニュースウオッチ9」の冒頭で、「この挑戦を可能にしたのは、研究者の執念だった」として、山田主任研究員の活躍を本人インタビューも交えて放送。「金星探査機『あかつき』での撮像失敗経験が今回の“万一の場合の備え”につながった」と、山田主任研究員の用意周到ぶりを讃えた。
 11日夜のTBSテレビ「ニュース23」には和田主席研究員が登場。東京スカイツリーキャンパスAreaⅡの「はやぶさ2」実物大模型の前で、「リュウグウ」への着陸の難しさや、地下試料の科学的価値などをコメントした。

成層圏で微生物採取


PERCチーム 大気球上げ成功
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大気球を使い成層圏に浮かぶ微生物を採取する惑星探査研究センター(PERC)の実験が7月4日に行われ、採取に成功した=写真(JAXA提供)。
 大野宗祐上席研究員をリーダーとするこの実験は2016年、17年に続いて3回目。北海道大樹町の大樹航空宇宙実験場から放球された大気球に、PERCが開発した微生物採取装置5基を吊るして行われた。
 大気球が高度28キロに達したところで切り離された採取装置はパラシュートで降下。28〜21キロ、21〜17キロ、17〜13キロの間でバルブを開閉し、各高度域で微生物を採取した。
 どの高さまで微生物がいるかを調べることで地球生物圏の上端がどのようになっているかを解明することが目的。もし大気上部に存在する微生物の中に地球由来以外のものが見つかれば、“宇宙由来”の生命が存在することになる。
 16年の実験で採取された微生物の蛍光顕微鏡写真の分析から、大野上席研究員らは、成層圏の微生物が何らかのガードによって紫外線から身を守ることなく、そのままの形で浮遊していることを世界で初めて明らかにしている。
大野上席研究員の話
私たちの実験の目的は、大きな視野では「地球型生命は地球にしか存在しないのか」を調べること。それは地球型生命の起源を解明することにつながります。