NEWS CIT ニュースシーアイティ

2019.3.15

随所に「CIT」技術


はやぶさ2 着地
その瞬間を撮影 光学航法カメラ 距離や表面分析 レーザー高度計 中間赤外カメラ 近赤外分光計 射出・採取と観測 衝突装置 分離カメラ
 「生命誕生の謎に迫る!」と日本中を熱狂させ、世界から称賛の声が寄せられた探査機「はやぶさ2」の小惑星「リュウグウ」への着地には、本学惑星探査研究センター(PERC)が開発に関わった観測機器が活躍し、科学的検討の成果が得られつつある。
PERCが活躍
 着地成功は2月22日午前7時29分。着地の瞬間、「はやぶさ2」は機体下部にある試料採取のための「サンプラホーン」から地表に弾丸を打ち込み、次の瞬間には上昇開始。高度30メートル以下で撮影した写真がこの日午後にはテレビや新聞で大きく報道された。
 この写真を撮った光学航法カメラ(ONC)の開発と研究に携わっているのが山田学研究員だ。この撮像は着地点を正確に推定するために必須の作業。
 山田研究員らは、この光学航法カメラを駆使して2018年2月26〜27日に、初めて「はやぶさ2」から宇宙空間に浮かぶ「リュウグウ」の実像をとらえるのに成功。
 また15年12月3日に行った「はやぶさ2」の地球スイングバイの際には、約660万キロ離れた地球を撮影。さらに航行途中にも日々近づいて、次第に大きく鮮明に見えてくる「リュウグウ」のほか、火星や恒星を撮影して地球に送るなど、数々の成果を挙げている。
 「はやぶさ2」は着地の8カ月前の18年6月27日、「リュウグウ」から20キロの目標地点に到着。このときから本格出番を迎えたのが、千秋博紀上席研究員が開発と科学応用研究に携わっているレーザー高度計(LIDAR)と中間赤外カメラ(TIR)、近赤外分光計(NIRS3)だ。
 LIDARは「リュウグウ」の表面にレーザーを照射し、その反射光が返ってくるまでの時間を計測して、「はやぶさ2」と「リュウグウ」との間の距離(高度)を測ると同時に、地形を正確に把握する。
 TIRはサーモグラフを使って「リュウグウ」表面の温度分布を測り、地表の凹凸や表面物質の状態などを知る装置。
 NIRS3は、水を含んだ物質に対しては反射率が非常に低いという赤外線の性質を利用して、「リュウグウ」の鉱物から化学組成としての水を発見するために開発した装置。得られたデータの本格的な解析はこれからで、荒井朋子主席研究員が担当するが、これまでの観測から「リュウグウ」の表面はほぼ均質の物質で覆われていることがわかっている。
 「はやぶさ2」の着地は当初、昨年10月の計画だったが、到着後の観測で地表が大小の岩石で覆われていることがわかった。このため着地点の選定などに時間がかかり、赤道付近に半径3メートルの平地をやっと見つけ出して、着地を成功させた。
 この過程では、千秋上席研究員らが関わっている3種の装置と観測成果も大きく貢献している。
「はやぶさ2」が着地し、上昇を始めた直後に光学航法カメラが撮影した「リュウグウ」の地表。機体の影が映っている(2月22日午前7時29分、©JAXA/東京大/高知大/立教大/名古屋大/千葉工大/明治大/ 会津大/産総研)
「はやぶさ2」が着地し、上昇を始めた直後に光学航法カメラが撮影した「リュウグウ」の地表。機体の影が映っている(2月22日午前7時29分、©JAXA/東京大/高知大/立教大/名古屋大/千葉工大/明治大/ 会津大/産総研)
再び試料採取へ
 「はやぶさ2」の使命は、太陽系の誕生や生命の起源の謎に迫る手掛かりとなる「リュウグウ」の鉱物を持ち帰ること。
 そこで最大の“見せ場”ともいえるのが、衝突装置(SCI)を使って「リュウグウ」の地表に人工的にクレーターを作り、内部物質を露出させて、そこからサンプルを採取する実験だ。このSCIの開発と科学検討に和田浩二主席研究員が携わっている。
 SCIは「はやぶさ2」から放出されて「リュウグウ」の上空に浮かび、時限装置によって火薬を爆発させて、重さ2キロの銅の弾丸を地表に衝突させる。衝突の瞬間に飛び散る弾丸の破片などから身を守るため、「はやぶさ2」はSCIを放出したらすぐさま「リュウグウ」の背後に退避するから、衝突の瞬間を観測できない。
 そこで、事前に「はやぶさ2」から離れて衝突の瞬間を観測する分離カメラ(DCAM3)の開発に、石橋高上席研究員が携わった。広い視野角をもつDCAM3は、爆発前のSCIや衝突によって生じる放出物の様子、クレーターの形成過程を撮影する。
 光学航法カメラも「はやぶさ2」からクレーター形成前と後を撮影。TIRもクレーターの位置探しなどに加わる。
 天体衝突の科学的解明を推進する上でも極めて貴重なこの衝突実験は、4月頃に実施される見込み。「はやぶさ2」はそこでできたクレーターからのサンプル採取を含めて、あと1〜2回の着地に挑み、今年11〜12月にはリュウグウを離れる。地球帰還は20年末の予定だ。
着地成功に沸くプロジェクトチーム。右端の赤ジャンパーが千秋上席研究員、その前が山田研究員(2月22日午前8時過ぎ、JAXA宇宙科学研究所管制センターで=ISAS/JAXA提供)
着地成功に沸くプロジェクトチーム。右端の赤ジャンパーが千秋上席研究員、その前が山田研究員
(2月22日午前8時過ぎ、JAXA宇宙科学研究所管制センターで=ISAS/JAXA提供)
 東京スカイツリータウンキャンパスのAreaⅡに2月7日から「はやぶさ2」の実物大模型が展示された=写真。宇宙でのミッションを身近に感じてほしいためで、関連情報も展示され、人気を集めている。