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2018.12.15

「心に寄り添う科学技術」


古田所長語る NECの催しで
パネルディスカッションで語る古田所長(左から2人目)
パネルディスカッションで語る古田所長(左から2人目)
 未来ロボット技術研究センター(fuRo)の古田貴之所長が11月8日、東京国際フォーラム(千代田区丸の内)で開催された「ロボットと生活する未来」を考えるパネルディスカッションで、fuRoが開発した「ILY―A(アイリーエー)」や「CanguRo(カングーロ)」を紹介しながら、「ロボティクスの目的は人々を幸せにする新しいライフスタイルの提案。僕たちは常に“人の心に寄り添った技術開発”を心がけている」とアピールした。
 大手電機メーカーのNECが主催した「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2018」の特別講演として開かれたこのパネルディスカッションに登壇したのは古田所長のほか、世界初のロボットが働く「変なホテル」をプロデュースした富田直美氏と、「鉄腕アトム」の作者・手塚治虫氏の長男で「世界でただひとりのヴィジュアリスト」を名乗る手塚眞氏。
 会場は同フォーラムの中で最大の5000人を収容するホールA。
 満席の聴衆に向かって古田所長は「僕のモットーは“ものづくり”ではなく“ものごとづくり”」とした上で、fuRoのロボット開発の基本理念は「ロボット技術で人々を幸せにすること。その技術を産業化して人々がより快適な生活ができるよう、社会を下支えすること」と語りかけた。
 これに手塚氏は「鉄腕アトム」に込めた父・治虫氏の思いを紹介しながら「可愛い子どもの姿をして、“心”を持っているロボット、アトムを通して、父は科学と技術と人との付き合い方を訴えたかったのだと思う。それは“心を使う技術”がまずなければならないということです」と応じた。
 また富田氏は、AI(人工知能)の進歩で人間の仕事が乗っ取られるとされていることに触れて、「科学技術の先端を走っている人たちは、自分たちがやっていることの“是”と“非”を社会に知らせる義務がある。AIも道具であり、大切なことは、それを創り、使う人間の側に“愛”があるかどうかだ」と強調。
 「人が幸せになる未来を創るロボット時代」に最も大切なことは「愛」だと、3人はそろって訴えた。

澤谷さん学生優秀講演賞


アルミ合金で鉄の無害化・有効利用に挑む
 日本鋳造工学会の第172回全国講演大会 (10月12〜15日、金沢市の石川県地場産業振興センターで開催)で、澤谷拓馬さん(工学専攻博士後期課程2年、本保元次郎研究室=写真)が「Al-Fe合金OCC線材の凝固組織と機械的特性」を発表し、学生優秀講演賞に決まった。
 通常、アルミニウムに鉄が含まれると、粗大な金属間化合物が結晶化して材料がもろくなってしまう。澤谷さんは、本保研で取り組む加熱鋳型式連続鋳造法OCCプロセスを用いて粗大な金属間化合物の晶出(結晶化)を抑制し、鉄を無害化して逆に有効利用する研究に挑んだ。
 実際に、Al-Fe合金をOCCプロセスで作製すると、粗大な金属間化合物は見られず、微細な金属間化合物となって均一に分散させることができた。
 作製したAl-Fe合金OCC線の強度を調べたところ、従来法で得られたものと比べて高い強度を示し、延性にも富んだ材料にすることができた。硬くてよく伸びる材料ができ、鉄の無害化・有効利用に成功した。
 自分にとっては当たり前のことでも、なるべく丁寧に、多くの人に理解してもらえるよう説明することを大事にしているといい、その姿勢が講演に生きた。
 澤谷さんの同賞受賞は2度目。「自分に実力が付いてきていることを感じました。これからも精進したいと考えています。指導してくださった先生方、共同研究の学部生たちに深く感謝します」と語った。

ナノ加工で真空技術賞


菅准教授とOB狩野さん
受賞した狩野さん(左)と菅准教授
受賞した狩野さん(左)と菅准教授
 本学の菅洋志・機械電子創成工学科准教授とOBの狩野諒さん(昨春、機械サイエンス専攻修士課程を修了、(株)三友製作所勤務)が昨年、三友製作所、産業技術総合研究所の研究者たちと8人連名で発表した「吸引プラズマエッチング法を用いたSiO2ダイアフラム構造作製技術の開発」が、日本表面真空学会の真空技術賞を受賞した。
 産官学連携で製品化を意識した研究を進めたことも評価された。
 同学会の2018年学術講演会(11月19日、神戸市の神戸国際会議場で開催)で表彰され、受賞記念に講演した。
 真空技術の一つ・プラズマエッチングは、ガスに高周波をかけてプラズマ化しイオンやラジカルで材料を加工する方法。吸引プラズマ加工技術は掃除機のようにガスを吸い込みながら細管先端にプラズマを発生する方法で、従来よりも強力で速い加工ができるものの、緻密な制御が難しかった。
 菅准教授と狩野さんらは、透過光モニタリングによる終点検知技術と緩やかな条件でのプラズマ安定化技術を開発し、表層のSiO2を60ナノメートルだけ残す精密加工に成功した。
 シリコンチップ上の薄膜は、圧力に応じ変位を生じるダイヤフラム構造として圧力センサーやマイクロフォン加速度センサーに応用されるが、製作プロセスは複雑で長時間かかる。
 菅准教授らの技術は省プロセス化に道を開き、自動運転の車載用センサーやIoTを実現するマイクロマシン(MEMS)センサー開発への貢献が期待される。
 また、電子デバイスから作製したダイヤフラム構造を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すると動作中の触媒やデバイス を直接観るオペランド計測も可能になり、基礎研究にも貢献できそう。
 菅准教授の研究室は、ナノメートル(10億分の1メートル)の精度が求められる領域の機械工学と電気・電子工学を探求。三友製作所もプラズマエッチング加工をリードする会社。菅准教授によると、受賞研究は千葉工大で生まれたアイデアを産官学連携で推進したもの。狩野さんら研究室学生のひたむきな実験によって結実したという。
 狩野さんは卒業後、三友製作所でプラズマの研究を続行。兄・祐二さん (2009年、電気電子情報工学専攻修士課程修了)も在学時、電気学会優秀論文発表賞A賞を受賞。自動車部品メーカーに勤務し、兄弟で活躍している。
 菅准教授は「千葉工大生の水準の高さを示せて、うれしく思います。産官学連携の枠組みでお世話になった産官学融合課や学外関係者にもお礼を申し上げたい。今後も学生たちと基礎研究を頑張ります」。
 狩野さんは「大変光栄です。菅先生や研究室仲間の助言・協力のおかげです。自ら実験装置を製作したり実験を考案するなど、成長を実感できました」と感想を寄せた。

石井さん研究奨励賞


仲林教授と、「分析の観点」を意識させる学習法検討
 電子情報通信学会の教育工学研究会(11月10日、東京都中野区の東京工芸大・中野キャンパスで開催)で、石井俊也さん(情報科学専攻修士2年=写真)が、指導教員の仲林清・情報ネットワーク学科教授と連名で発表した「システム要求分析における分析観点の獲得をねらう学習手法の検討」が研究奨励賞を受賞した。
 石井さんは情報システム開発の「要求分析」工程で、学生に「分析の観点」を意識させる学習法を研究している。
 観点とは、物事を考えるときの視点。学習者に3つの観点▽機能に欠陥がないか▽使いやすさはどうか▽システムの利用者は誰か――を意識させることで要求分析能力の向上を促し、学習者自らに4つ目の「業務知識に関する観点」を獲得させる。
 種々の課題解決で、何らかの観点を決めると考えやすくなるし、熟達者は多くの観点を持っているはず。しかし従来の教育では、観点を意識的に決めて分析する考え方は教えられていない、と考え研究を始めたという。
 予備実験では、3つの観点を学習者に与えた結果、学習者は課題文に対してシステム自体の動きに強く注目し、業務知識とシステムの結びつきには注目しない傾向が見られた。
 石井さんは「研究が評価され、うれしく思います。周りで見てきた研究の多くはICT(情報通信技術)を教育現場に適用するタイプ。対して、私たちの手法は<考え方を教える>というものです。千葉工大で重視する<技術で貢献する>を、私は<考え方の技術>としても捉えています。教育工学は学習者にも重要なので、学び手同士で活発に議論してほしいと考えています」と語った。