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2018.12.15

小惑星「フェートン」へ


PERC JAXAと新たな挑戦
 惑星探査研究センター(PERC)が「地球生命」誕生の謎に迫る新たなプロジェクトに挑んでいる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、ふたご座流星群の母天体である活動的小惑星「フェートン」を探査する「デスティニープラス(DESTINY+)」。観測に使う衛星の2022年打ち上げを目指している。PERCにとっては、国際宇宙ステーション(ISS)からの長期流星観測プロジェクト「メテオ」に続くビッグミッションだ。
2022年 衛星打ち上げ目指す
 PERCが12月8日に東京スカイツリータウンキャンパスで開いた一般講演会で、「デスティニープラス」の主任研究者を務める荒井朋子主席研究員が計画の概要を明らかにした=写真
噴き出す塵 「生命の種」検証

 地球外から地表に降り注ぐ年間4万トンを超える塵(ダスト)には、隕石の数倍以上の炭素やアミノ酸などの有機物が含まれており、地球生命の種(出発物質)である可能性が考えられている。近年、惑星科学や天文学の分野では、この仮説の検証を目指して、塵と塵を地球にもたらす母天体の実態を解明する研究が盛んだ。
 「デスティニープラス」が目指す「フェートン」は、彗星を母天体とする流星群が多いなかで、小惑星でありながら塵を吹いている。つまり小惑星と彗星の両方の特徴をもつ天体だ。直径約6キロと地球近傍惑星では最大級。公転周期1.4年の楕円軌道で太陽の周りを回っており、この間に地球と太陽の距離の10分の1まで太陽に近づき、熱せられて塵を噴き出す。
 「デスティニープラス」ではまず、イプシロンロケットで打ち上げた小型衛星を地球周回軌道に乗せた後、衛星自体が徐々に高度を上げ、2年かけて地球圏を脱出。さらに2年後、相対速度秒速35キロの「フェートン」に距離500キロまで接近する。
 そして、すれ違いざまに超望遠カメラで表層の地形を調べたり、複数波長の分光カメラで表層の物質分布を調査。これによって活動的小惑星が塵を放出する仕組みが、世界で初めて解明されることが期待される。
 また、独シュツットガルト大が開発するダストアナライザーで「フェートン」から放出された塵の化学組成や速度、サイズ、到来方向をその場で分析。さらにフェートンに到着するまでの惑星間航行中、惑星間ダストおよび星間ダストの分析も行う。
 ちなみにロケットや衛星の開発などの工学ミッションはJAXA宇宙科学研究所が主導。超望遠カメラと分光カメラの開発および観測機器を使った科学ミッションはPERCが中心となり、国内及び海外の30を超える大学や研究機関が加わった国際的な探査態勢が構築されている。

 なお12月8日は荒井主席研究員のほか、渡部潤一・国立天文台副台長・教授が「ふたご座流星群に挑む:流星群の仕組みと観察の仕方」、吉川真・JAXA宇宙科学研究所准教授が「はやぶさ2の最新状況とDESTINY+への期待」と題して講演した。

「宇宙を身近に」


PERCが講演会
 惑星探査の研究活動をもっと一般の人にも知ってもらい、宇宙を身近に感じてほしいと、PERCが主催する講演会が好評だ。
「リュウグウ」は黒いそろばん玉
千秋上席研究員が講演
 11月4日、東京スカイツリータウンキャンパスで開いた「はやぶさ2最新報告と小惑星の科学」には、天文ファンなど100人以上が訪れた。
 小惑星探査機「はやぶさ2」は、太陽系が誕生した46億年前の状態を残している「リュウグウ」を目指して2014年12月3日に打ち上げられ、今年6月27日に到着。表面からのサンプル採取のためのさまざまな観測と挑戦を行っている。
 PERCは「はやぶさ2」に搭載されているほぼ全ての観測機器の開発と科学的検討に参加。
 この日の講演会では、レーザー高度計や中間赤外カメラ、近赤外分光計などの装置メンバーに連なり、開発や運用、データ解析を行っている千秋博紀上席研究員が、「はやぶさ2」から3億キロの距離を超えて徐々に見えてきた「リュウグウ」の実像を紹介した。
 「はやぶさ2」の到着前にはほぼ球形だと予想されていたのが、円錐を2つ重ね合わせたそろばん玉のような形で、直径約900メートル。表面には多くのクレーターがあり、長さ10メートルから1〜2メートルの岩で覆われた複雑な地形で、砂はない。
 あたかもそろばん玉の軸のように自転軸が立っており、周期7時間38分で自転している。表面反射率が小さいことから、石炭のように真っ黒な天体であることが分かる。日中の表面温度は摂氏60〜70度と高い。
 つまり全てが岩だらけの斜面という、着陸にはおよそ不向きな地形。プロジェクトチームのメンバーからは「どこに着陸すればいいんだ!」と悲鳴が上がったという。
 こうした困難を乗り越えて、「はやぶさ2」はこれから着陸に挑戦。来年1月から5月までサンプル採取を行って、11〜12月に「リュウグウ」を離れる。地球帰還は2020年末の予定だ。
 この日は、仏コートダジュール天文台惑星科学グループリーダーのパトリック・ミッシェル博士と、日本の小惑星研究史の第一人者、中村士(つこう)博士も、リュウグウや小惑星族について講演した。
メテオ観測順調3月には帰還へ
荒井主席研究員が講演
 PERCの荒井朋子主席研究員が11月23日、千葉県立現代産業科学館(市川市)で、国際宇宙ステーション(ISS)からの流星観測プロジェクト「メテオ」について講演した。同館の今年度の企画展、ISSで宇宙飛行士が食べている日本や米国、ロシアなどの宇宙食を紹介する「宇宙(そら)の味」に合わせて開かれた。
 米航空宇宙局(NASA)からの呼びかけにPERCが応じて2013年にスタートした「メテオ」プロジェクトは、民生品を改良した高感度ハイビジョンカメラをISSに運ぶロケットの2回の爆発などを乗り越え、2016年7月に米国の実験棟「デスティニー」から観測開始。以来順調に観測を続けて、来年2月に終了。3月にはカメラなどの観測機材が地球に帰ってくる予定だ。
 荒井主席研究員は「なぜ流星を観測するか」から始めて、この間の観測の成果を地球に降り注ぐ流星の光の映像などを使って分かりやすく説明。
 さらにこの観測が「世界初」の「千葉工大とNASAが直接協力」し合って行う極めてユニークな試みであること。PERCの研究員たちは千葉工大津田沼キャンパスに設置された運用管制室から、NASAのネットワークを使ってISSと直接交信してカメラを制御し、撮影された映像を直接ダウンロードしていることなどを紹介した。
 また、PERCが「地球の生命の種は地球の外からもたらされたのではないか」というアストロバイオロジー(宇宙生物学)の研究に挑んでいる日本で唯一の研究機関で、惑星科学や惑星探査の研究を専門に行う研究機関はJAXA以外はPERCだけという意味でPERCは「ミニJAXA」だと強調した。