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2014.12.15

本学成果 載せて


「はやぶさ2」6年間の旅へ
開発にPERC活躍
 12月3日午後1時22分、「はやぶさ2」打ち上げの瞬間、津田沼キャンパス2号館大教室は大きな拍手と歓声に包まれた。それは「CIT」の研究成果が宇宙へ飛び立った瞬間でもあった。この小惑星探査機に搭載されているほぼすべての観測機器の開発と科学的検討に際し、本学惑星探査研究センター(PERC)が活躍した。その研究について、担当の研究者とともに紹介する。
打ち上げの瞬間(津田沼の大教室で)
打ち上げの瞬間(津田沼の大教室で)
 「はやぶさ2」の最も大きな使命は、往復6年間の過酷な旅に耐え抜いて、小惑星「1999JU3」から物質のサンプルを持ち帰ること。サンプルの分析によって太陽系と地球の生命の起源を解明する手掛かりが得られると期待されている。
 この宇宙の旅と小惑星の観測を支えるPERCの研究とは――。
■小惑星の内部をのぞく“窓”をつくる衝突装置(SCI)
 「はやぶさ2」は衝突装置によって小惑星に人工的にクレーターをつくり、内部物質を露出させて、そこからサンプルを採取する予定。小惑星「1999JU3」の内部には、始原的で太陽系初期の情報を保持している物質が存在すると考えられている。この衝突装置の開発とサイエンス検討を行っているのが和田浩二上席研究員だ。
 本物の小惑星を標的に衝突実験が行えることは天体衝突の科学を推進するうえでも極めて貴重な機会だ。しかし、4.7キロもの爆薬を使うため、「はやぶさ2そのものを破壊する可能性を抱えた唯一の機器」でもある。
■衝突の瞬間を観測する分離カメラ(DCAM3)
 SCIは重さ2キログラムの銅の弾丸を火薬の爆発によって秒速2キロメートルで小惑星に衝突させる。衝突の瞬間には飛び散る装置の破片から身を守るため、「はやぶさ2」は前もって小惑星の背後に退避し、衝突の瞬間を観測できない。そこで事前に「はやぶさ2」から離れて衝突の瞬間を観測する分離カメラが準備されており、その開発に石橋高上席研究員が大きく貢献した。この分離カメラは、爆発前のSCIや衝突によって生じる放出物の様子、クレーター形成過程を撮像する計画。
■レーザー高度計(LIDAR)
 「はやぶさ2」は2018年夏に小惑星に到着した後、約1年半かけてさまざまな観測・実験を行う。これに欠かせないのがレーザー高度計だ。レーザーを小惑星の表面に照射し、その反射光が探査機に到達するまでの時間を計測して、探査機と小惑星の間の距離(高度)を測る。
 この装置の開発と科学応用検討を主任科学研究者として牽引したのが、竝木則行前PERC副所長(今年4月から国立天文台教授)。さらに千秋博紀上席研究員は、このレーザー高度計を用いて小惑星周辺の塵を検出するという他に類を見ないユニークなサイエンスの検討を主導している。
■含水鉱物を見つける近赤外分光計(NIRS3)
 小惑星から水を含んだ岩石が見つかれば、地球生命の起源を理解するヒントが見つかる。そこで水を含む物質に対しては反射率が非常に低いという赤外線の性質を利用して、小惑星の鉱物から化学組成としての水を発見するために開発したのが近赤外分光計だ。千秋上席研究員と荒井朋子上席研究員が関わっている。
■光学航法カメラ(ONC)
 取得画像から探査機の位置を把握して航行に役立てると同時に、科学観測用に小惑星表面の詳細画像を撮像する。この開発と観測計画の検討に山田学研究員が大きな役割を果たしている。
見守る本学関係者と市民たち(写真はいずれも文化会写真部撮影) 見守る本学関係者と市民たち(写真はいずれも文化会写真部撮影)
見守る本学関係者と市民たち
(写真はいずれも文化会写真部撮影)

打ち上げに拍手


津田沼でライブ映像
 ・・・・・・3、2、1、0――園児たちの声に合わせ、大教室全体にカウントダウンが響き渡り、大拍手が起きた。
 320インチ大スクリーンには、オレンジ色の光を発したH‐IIAロケット26号機が爆音をとどろかせて発射台を離れるライブ映像。ロケットは柱のような白煙を残して雲に突入し、やがて再び姿を現すと、真っ青な空にぐんぐん昇って小さくなっていく――。
 12月3日、津田沼キャンパス2号館3階の大教室で行われた「はやぶさ2」打ち上げのパブリックビューイングには、一般市民や本学の学生、教職員など約600人が詰めかけた。その中には津田沼幼稚園と大久保第2保育所の園児計55人も=写真
 やがてスクリーンに、東南東に針路を取ったH‐IIAロケットが、固体ブースターと衛星フェアリングを分離する映像が写し出されると、会場ではまた大拍手。
 さらに第2段エンジンの始動と停止によって慣性飛行に入ったH‐IIAは、打ち上げから1時間47分後の午後3時9分ごろ、「はやぶさ2」の分離に成功した。
 その情報が宇宙航空研究開発機構(JAXA)からのライブ音声で伝えられると、「はやぶさ2」のミッションや打ち上げの仕組みなどをわかりやすく解説していた千秋博紀上席研究員は「これまでの苦難を乗り越えて、やっと打ち上げ成功です。とにかくほっとした」と、初めて安堵の笑みを浮かべた。
 この日、ステージでは千秋、和田浩二、石橋高の3上席研究員がトークライブ。PERCが開発に関わった観測機器の紹介をクイズ(当初発射予定日の30日に行われたトークライブからの抜粋)を交えて紹介した。

「はやぶさ2」の旅


 「1999JU3」に到着するのは2018年夏。約1年半かけて内部の物質採取や地表の観測などを行う。物質を収めたカプセルは東京オリンピックの後の2020年末に本体から切り離され、オーストラリア南部の砂漠に落下する。往復で6年間、約52億キロの長旅だ。「はやぶさ2」はカプセル分離後も燃料が余っているため、さらなる小惑星探査に挑戦する計画。なお今回の打ち上げは11月30日→12月1日→同3日と2度延期された。

「はやぶさ2」に本学技術


「誇りに思う」 学生たち
30日のトークライブで(左から)石橋、和田、千秋のPERC上席研究員たち
30日のトークライブで(左から)石橋、和田、千秋のPERC上席研究員たち
 「はやぶさ2」打ち上げの12月3日午後、津田沼キャンパス2号館大教室のライブ中継会場で、感動の打ち上げを見守った学生たちは、感想を「大スクリーンで見る打ち上げ映像は、さすがに迫力があった」「こういう研究が行われている千葉工大で自分が学んでいることを誇りに思う」などと語った。
 ステージではPERC上席研究員らのトークライブが催され、「もしも・・・の時のスペアは用意していたのですか?」「これまでの開発技術は今後何に生かせますか?」と、上席研究員らに対し、工学系の学生らしい質問が飛び交った。
 取材に来ていたTVクルーも「小惑星探査の研究には長い年月がかかるが、はやぶさ2の次世代機は?」と質問。千秋博紀上席研究員は「そのためにも若い研究者がどんどん参加してほしい。幸いPERCの研究員は皆若い。6年後にはやぶさ2が地球に帰ってきてからも、自分たちは研究現場で一緒に夢を追いかけられる」と答えていた。

クイズ 正解は? トークライブ


タウンキャンパスで
 一方、当初打ち上げ予定日だった11月30日、東京スカイツリータウンキャンパスの「AreaII惑星探査ゾーン」で千秋、和田浩二、石橋高の上席研究員3人がトークライブを行った。
 本学ウェブサイトで参加者を募集。天候不良で打ち上げが延期になったにもかかわらず小中学生と父母たちが駆けつけ、会場の3D宇宙シアターはほぼ満員。
 盛り上がったのが、本学が関わった観測機器についての知識を交えた「はやぶさ2クイズ」だ。そのいくつかをご紹介――。
小惑星「1999JU3」の大きさに近い標高の山は?     (答え=筑波山877メートル)
「はやぶさ2」に搭載されているレーザー高度計のビームの色は?     (答え=透明)
衝突装置の弾丸の衝突速度に最も近いのは?     (答え=ライフル銃弾の時速7200キロ)
衝突装置のサイズに最も近い電気製品は?     (答え=炊飯器)
分離カメラのサイズに最も近いのは?     (答え=カップラーメン)
分離カメラの衝撃試験はどのように?     (答え=ベテランの職人が木槌でたたいた)
「1999JU3」の最高温度に近いものは?     (答え=アイロンの中温130度)
近赤外分光計は搭載装置で最も低温に保つ必要があるが、その温度に最も近いのは?     (答え=南極点の最低気温マイナス82.8度)
 最難問だったのは分離カメラの衝撃試験で、正解者なしだった。
 最後にチバニーが登場し、上位当選者にチバニー煎餅をプレゼント。他の参加者にもチバニードロップ缶が贈られた。終了後、宇宙博士を目指す小学生らが代わる代わる上席研究員を取り囲み、記念撮影したり、調べたことを質問したりしていた。
3D宇宙シアターで 学生たちが和田上席研究員に質問
3D宇宙シアターで 学生たちが和田上席研究員に質問
平成27年4月よりキャンパス内全面禁煙