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2014.11.15

世界初 宇宙から流星観測


惑星探査研究センター 「メテオ」再打ち上げ目指す
事故と計画の概要を説明する荒井上席研究員(10月30日、津田沼キャンパスで)
事故と計画の概要を説明する荒井上席研究員
(10月30日、津田沼キャンパスで)
 ロケットの爆発で延期を余儀なくされた国際宇宙ステーション(ISS)からの長期流星観測プロジェクト「メテオ」について、本学惑星探査研究センター(PERC)と米航空宇宙局(NASA)はできるだけ早い時期に予備のカメラをISSに打ち上げることで合意した。PERCは4月までに「メテオ」カメラ一式をNASAに引き渡すよう全力を挙げる。10月30日にPERCの松井孝典所長と荒井朋子上席研究員が津田沼キャンパスで記者会見して明らかにした。
PERCの流星観測カメラ
PERCの流星観測カメラ
 米バージニア州ワロップス島にあるNASAの飛行施設で、ISSに物資を運ぶ無人補給船「シグナス」3号機を載せたロケット「アンタレス」が打ち上げ直後に爆発、炎上したのは日本時間10月29日午前7時22分(現地時間28日午後6時22分)ごろ。
 シグナスには、荒井上席研究員をリーダーとするPERCのプロジェクトチームが約1年半をかけて開発した「メテオ」カメラシステムが搭載されていた。
 この爆発の瞬間を瀬戸熊修理事長、松井所長、荒井上席研究員、染谷明人総務部長、大和秀彰未来ロボット技術研究センター(fuRo)主席研究員の5人は、ロケット発射台からわずか3キロにある、NASAが特別に許可した関係者だけが立ち入りを許される観望地点で、じかに目撃した。
 事故後、直ちに帰国の途についた一行は30日午後3時半過ぎ、成田空港に到着。そのまま津田沼キャンパスに戻り、松井所長と荒井上席研究員は報告会見に臨んだ。
 一方、荒井上席研究員は、ワシントンの空港で帰国便に乗り込む直前、NASA担当者らと電話会議。その結果、シグナスに搭載していたメテオカメラと同時開発していた予備機一式を、打ち上げに向け早急に仕上げ、半年以内にNASAへ引き渡し、できるだけ早い時期にメテオをISSに打ち上げて、流星観測を開始することで合意した。
 電話会議では、失われたメテオシステムの本学側の損害額についてNASA側から問い合わせがあり、回答した。
 また、今回のロケット爆発でメテオによる流星観測に必要なISSの窓用のシャッター自動開閉装置も失われ、再製作には1年程度かかることも分かった。シャッターの開閉は宇宙飛行士が手動で行うことも可能なため、今後、輸送機や打ち上げ時期についてのNASAとの交渉の中で、対応策を話し合っていく。
爆発、炎上する搭載ロケット「アンタレス」(10月29日、ワロップス島で荒井上席研究員写す)
爆発、炎上する搭載ロケット「アンタレス」
(10月29日、ワロップス島で荒井上席研究員写す)

現地で事故を目撃


瀬戸熊理事長ら訪米5人
 すさまじい閃光と爆発音、そして火砕流のような噴煙。
 「早く走って逃げろ!」
 NASA職員が大声で怒鳴る。その間にも熱風が押し寄せてくる。瀬戸熊理事長ら本学の5人は間一髪で現場を離れた。
 誰も予期しなかった事故だった。当初に予定されていた27日(現地時間)の打ち上げは、指定危険水域に漁船が侵入して中止されたが、28日は順調にカウントダウンが進み、第1段エンジンに点火されたアンタレスはゆっくりと上昇を始めた。
 見守っていた誰もがほっとした次の瞬間、機体下部がオレンジ色の光に包まれた。その直後、機体が落下し始め、地上で大爆発。この間、わずか6秒。
 ビデオカメラで撮影していた荒井上席研究員は呆然となり、一瞬、立ちすくんだ。が、NASA職員の大声で我に返って、カメラを回しながら逃げた。
 これより先、瀬戸熊理事長ら本学の一行は現地時間10月24日、ワシントンのNASA本部を訪れ、オブライエン副長官に面会して、メテオプロジェクトについて意見交換した=写真。27日には駐米日本大使館で佐々江賢一郎大使に同プロジェクトについて説明した。
 事故の直後から、CNNなど米国のテレビは緊急速報でアンタレス爆発の模様を繰り返し報道。日本でも、NHKを始めテレビ各局が終日、ニュースの時間で大々的に扱い、新聞も29日夕刊や翌30日の朝刊で扱った。いずれも「千葉工業大学の流星観測カメラが搭載されていた」と大きく報じた。

世界初 「メテオ」プロジェクト


宇宙から“流星の謎”解明
解説
 ISSの米国の与圧実験棟「デスティニー」の窓越しに、超高感度ハイビジョンカメラを用いて2年間にわたって流星を観測する「メテオ」(METEOR=流星)プロジェクトは、本学惑星探査研究センター(PERC)が世界に先駆けて行う意欲的な挑戦だ。
 このプロジェクトはもともと、PERCが進める超小型衛星による流星観測に関心を寄せていたNASAからの呼び掛けで始まった。ISSでの日本の研究は通常、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の実験棟「きぼう」で行われており、米国の実験棟で日本の研究機関が主体的に科学観測を行うのはこれが初めてだ。NASAと日本の一大学が連携・協力して一つの研究プロジェクトを遂行するケースも世界に例がない。
 メテオを搭載した補給船シグナス3号機の打ち上げは当初の予定では現地時間の10月27日に行われ、11月2日にISSとドッキング。12月初めから世界初の長期流星観測が始まることになっていた。
■津田沼の管制室で制御
 この観測に使われる超高感度ハイビジョンカメラは、NHKが2012年に3回にわたり放映した『宇宙の渚』の撮影に使用したカメラの改良版。
 観測は津田沼キャンパス8号館のPERC内にあるNASA公認の運用管制室=写真=からの指令・制御で行われる。地上から約400キロの上空を飛行するISSは、約90分で1周し、1日に地球を16周する。1周のうち流星観測に適した夜側は35分なので、1日の観測時間は約560分。
 こうして得られた観測映像はISS上のコンピューターに接続されたハードディスクに保存される。その中から流星を含むデータをソフトウエアで自動的に切り分け、地上に送信し、PERCの運用管制室でその日のうちに見ることができる。東京スカイツリータウンキャンパス惑星探査ゾーンとウェブ上でも一般に公開される予定だ。
■彗星・小惑星探査並み成果を期待
 画期的なPERCの長期流星観測。どのような科学的成果が期待されているのだろうか。
 流星は、彗星や小惑星から放出された塵の集まりの中を地球が通過する際に、塵が大気との摩擦により加熱されて発光する現象。流星の塵の一部には太陽系より外の宇宙で作られた有機物も含まれ、それが地球に届いて生命が誕生したと考える科学者もいる。
 PERCは、この長期観測結果で得られる膨大なデータを基に、流星の飛跡や明るさから流星塵の大きさを求めたり、流星発光の輝線の分光観測を行い、鉄、マグネシウム、カルシウム、ナトリウムなどの化学組成を調べる計画だ。
 また、1年のうちの決まった時期に現れる「ペルセウス座」「ふたご座」「しぶんぎ座」などの主要な流星群は、流星の塵が由来する母天体(彗星や小惑星)が分かっているので、流星群の観測結果から母天体そのものの探査に匹敵する科学成果が得られると期待されている。
 主要流星群の観測は観測条件が異なるために、物理・化学特性についての公平な議論ができていなかった。「ISSからは天候や大気の影響を受けずに定常的な観測が可能で、観測データ数も飛躍的に増えるので、より統計的で公平な流星科学研究が可能になることが期待される」と、荒井上席研究員は話している。
第65回 津田沼祭
平成27年4月よりキャンパス内全面禁煙