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2014.4.15

実験で解明 世界的に反響
強酸性雨が原因で 生物大量絶滅


PERC 大野研究員チーム
 6550万年前の生物大量絶滅の原因は、巨大隕石の衝突で全地球的に降った酸性雨と海洋酸性化が原因だった――。本学惑星探査研究センター(PERC)の大野宗祐上席研究員を代表者とする研究チームは、生物大量絶滅の中で最大の未解決問題だった海洋生物絶滅のメカニズムを、高出力レーザーを用いた世界初の実験で解明し、3月10日付の英科学誌ネイチャージオサイエンス電子版に発表した。このニュースはNHKや主要全国紙、また海外メディアも一斉に報道し、世界的な反響を呼んだ。
地球外天体が海洋に衝突した瞬間の想像図(NASA作成)
地球外天体が海洋に衝突した瞬間の想像図(NASA作成)
 白亜紀末に起きた恐竜をはじめとする生物の大量絶滅については過去、さまざまな論争が繰り広げられたが、1980年にノーベル物理学者のルイス・アルバレズ博士が提唱した、直径10キロもの巨大隕石の衝突による複合的な環境変動が原因という仮説が現在は定説となっている。
 実際に白亜紀末に形成された直径180キロもの衝突クレーター(チチュルブ・クレーター)が、91年にメキシコ・ユカタン半島で発見された。
 さらに2010年には世界12カ国の地質学、古生物学、地球物理学、惑星科学などの研究者41人がチームを組み、天体衝突と生物大量絶滅に関する研究の数々を統一的に検討。チチュルブ衝突によって生物大量絶滅が起きたことをあらゆる証拠が示しているという結論をまとめ、米科学誌サイエンスに発表した。
 松井孝典・惑星探査研究センター所長も加わったこの研究によって、長年続けられてきた“恐竜絶滅論争”には決着がついた。しかし、なお未解決だったのが《天体衝突がどのような環境変動を引き起こし、それがいかにして生物大量絶滅をもたらしたのか》という、具体的なメカニズムの解明であり、なかでも海洋生物の食物連鎖の基底となる海洋プランクトンがなぜ絶滅したか――は、これまでの仮説では説明が不可能だった。
大野上席研究員
大野上席研究員
■隕石衝突時の状況をレーザー実験で再現
 そこで、大野上席研究員らの研究チームは「硫酸の酸性雨」に着目した。ユカタン半島には硫黄を含む岩石が豊富に存在したことが分かっており、それが隕石衝突のエネルギーで蒸発し、酸性雨の原料となる硫黄酸化物ガスが大気中に爆発的に放出されたと考えられるからだ。
 研究チームは大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの高出力レーザーを使って、チチュルブ・クレーター付近の地層と同じ硫酸塩岩に、秒速15〜20キロという宇宙速度に加速した金属粒子を衝突させる実験に世界で初めて成功。隕石衝突時の温度と圧力を再現した結果、これまで考えられていた二酸化硫黄ではなく、硫酸になりやすい三酸化硫黄が放出されることがわかった。
 さらに理論計算によって、隕石衝突によって放出された三酸化硫黄は数日で酸性雨となって全地球的に降り注ぐこと、その結果、数年間にわたり海洋表層で炭酸カルシウムが溶け出してしまう海洋酸性化が起きることが明らかになった。
 この研究結果によって、代表的な海洋プランクトンである浮遊性有孔虫や石灰質ナノプランクトンの大半が絶滅したこと、隕石衝突後、最初に酸に強いシダ植物が繁茂したことも、強い酸性雨と海洋酸性化によるものであることが統一的に説明できるという。
 大野上席研究員らは「白亜紀末の生物大量絶滅は、隕石衝突の場所がたまたまユカタン半島だったから起きた。他の場所だったら違った結果になっていただろう」としている。
 3月6日に東京スカイツリータウンキャンパスの惑星探査ゾーンで行われたマスコミへの事前レクチャーには、論文の共同執筆者12人のうち松井所長、門野敏彦・産業医大教授、杉田精司・東大新領域創成科学研究科教授(PERC客員上席研究員)、重森啓介・阪大レーザーエネルギー学研究センター准教授が出席した。

地域発展・教育で連携


習志野市と本学 包括協定
協定を結び握手する瀬戸熊理事長(左)と宮本市長
協定を結び握手する瀬戸熊理事長(左)と宮本市長
 本学は3月25日、習志野市との間で、まちづくりに関係するさまざまな分野で相互に協力し、地域社会の発展と人材の育成を進めるための包括的な連携協定を締結した。
 大学の役割の一つとして「地域貢献」や「地域社会との共生」が挙げられている。習志野市に大半の施設がある本学はこれまでも、災害時の地域住民の避難場所としてのキャンパス活用や帰宅困難者への食料提供など、いろんな分野で習志野市と個別に協定を結んで事業を進めてきた。
 また、市の各種委員会に本学の教員が専門家として参加したり、商店街活性化のための研究を学生が商店主たちと一緒に進めるなど、地域の活性化にも貢献してきた。
 今回締結された包括協定は、こうした個別事業の成果をベースとして、さらに本学と習志野市が良好な関係を築くことによって、一層幅広い分野で相互の人的・知的・物質的な資源の活用を進め、地域社会の発展に役立てていくことが目的。
 協定では協力事項として、地域経済・産業振興▽危機管理・安全対策▽都市基盤▽環境づくり▽教育▽生涯学習など11項目が掲げられている。
 今後、本学は総務部総務課、習志野市は基本政策の担当課が所掌部署となって、連携協力事項を実施するための協議を行い、必要に応じて事業別の覚書を締結する。
 協定締結式は津田沼校舎1号館20階のサロンで行われ、瀬戸熊修理事長と宮本泰介市長がそれぞれ署名した協定書を交換。この後、瀬戸熊理事長は「大学がもっている知的・人的などさまざまな財産を活用して、協力事項の実現に協力していきたい」、宮本市長は「大学とのこのような包括協定は市として初めて。今後、両者が永続的に発展していくことを祈念している」とあいさつした。

長島さん優秀賞受賞
矢須さんには助成金


微細気泡の応用技術 研究で
表彰状を手に喜ぶ長島さん(左から2人目)
表彰状を手に喜ぶ長島さん(左から2人目)

 地球の「土壌圏」を環境システム(物質循環)からとらえる矢沢勇樹・生命環境科学科准教授の研究室で、受賞者と研究助成採択が重なった。
 長島由樹さん(生命環境科学科4年=受賞当時)は日本海水学会若手会の第5回学生研究発表会(3月5、6日、長野県の日本大学軽井沢研修所で開催)で「オゾンマイクロバブル供給によるヨードかん水からのヨウ素浮撰分離」を口頭・ポスターの両方で発表し、優秀賞を受賞した。
 ヨウ素が多量に含まれる海水(かん水)に、オゾンの微細気泡を吹き込み、気泡に付着させて浮き上がらせ、ヨウ素を効率よく分離する技術を説明したもの。
 長島さんは「初めての学会発表で、貴重な経験ができました。刺激を受けると同時に、受賞は大きな自信になりました。矢沢先生たちのおかげです」と喜びを語った。長島さんは4月にヨウ素、金属化合物などを世界に供給している有名化学工業会社に入社した。

 また、同研究室の矢須元規さん(生命環境科学専攻修士1年=受賞当時)は「ナノ・マイクロバブルとモルデナイトの複合施用による汚染塩の浮撰分離」の研究を公益財団法人日本科学協会の平成26年度笹川科学研究助成(一般科学研究部門)に申請し、採択された。100万円を限度に助成される。
 東日本大震災では東京電力福島第一原発事故で現在も放射能汚染土壌や貯蔵汚染水の除去の目途がたっていない。矢須さんは、微細気泡の有効性と、福島県で産出されるモルデナイトがセシウム吸着性能が高いことに注目、セシウムの浮撰分離計画を立て、汚染除去の方法として評価された。
 地圏環境工学(矢沢)研究室の笹川科学研究助成の採択は4件目。

助成採択された矢須さん(右)
助成採択された矢須さん(右)