NEWS CIT ニュースシーアイティ

2013.1.15

「グローバル化元年」
垣根超えて柔軟に


千葉工大の未来 新春対談
 明けましておめでとうございます。千葉工業大学は昨年、創立70周年を迎えました。津田沼、芝園の両キャンパスとも姿を一新し、教育・研究、そして学生生活の面でも大いに便利に、充実したものになりました。昨年、受験志願者は3万人を超え、日本で最も伝統ある私立工業大学として地歩を固めています。一方、科学技術は発展を続けていますが、これをさらに人間のために生かす方策が求められています。本日は、新体制で新たな改革に臨む瀬戸熊修理事長と小宮一仁学長のお二人に、新年、さらに100周年をにらんだ抱負を語っていただきます。(進行は稲葉祐一入試広報部長)
小宮一仁学長 瀬戸熊修理事長
小宮一仁学長 瀬戸熊修理事長
●少子化にらんで改革
 ――最初に近未来に向けた千葉工業大学の将来構想をお聞かせください。
  瀬戸熊修理事長 将来構想と申しましても、基本的には「世界文化に技術で貢献する」という創立の理念が今日まで色あせず、脈々と受け継がれています。これからも世界のステージで活躍する技術者の育成に努めて行きます。
 小宮一仁学長 私は、今年を千葉工大グローバル化元年と位置づけたいと思います。グローバル化イコール国際化と考える方がいますが、両者は同一ではありません。グローバル化とは「垣根を取り除く」ということです。本学でも従来の垣根を取り除き、新しい形を作っていきたいと考えています。理事長と学長が同時に前任者よりも二十二歳も若返った今、グローバル化を推進して、大きな改革を行う。是非皆様に御協力いただきたいと思います。
 理事長 経営的には、この15年間で学部の改組や大学改革の実施、それに伴う施設設備、環境整備を積極的に行ってきました。その結果が志願者の増加につながるなど、成果として上がってきています。津田沼・芝園キャンパスの再開発計画はほぼ終了を迎え、集大成としてグローバル社会を担う人材育成も考慮した学生寮の建設を計画しています。今後は教育と研究にさらに積極的に取り組んでいくことになります。近未来で言いますと、「2018年問題」といわれる少子化の課題があります。現在18歳人口は120万人ほどですが、あと6年くらい経つとまた減りだして2031年には30万人近く減少します。国公私立783大学ありますが、本学も歴史を重ねていかなければならないわけで、緊張しています。この10年は特にしっかりやっていかなければなりません。特に教育の質的向上を図る上では、学生の視点と社会からのニーズを反映した教育体制づくりが、また、世界に向けて最先端技術の研究成果を発信し続けて行くためには研究体制の強化は一瞬たりとも立ち止まることはできません。改革を鋭意進めないと生き残れません。
 学長 学長に就任する前の4年間は入試の責任者をしていました。入試部局には常に客観的なデータが集まります。本学が外からどう見られているかというデータです。本学は今、上昇気流に乗っていると思います。キャンパス再開発の完成、スカイツリータウンキャンパスの展開など斬新な事業や伝統ある学科の優れた研究成果が高校生や保護者の皆様に受け入れられ、社会的な注目度はたいへん上がっていると思います。fuRo(未来ロボット技術研究センター)ができて10年近くが経ちましたが、今回の原発事故ではその活躍が大きくクローズアップされました。成果が上がっている半面、課題も残っていると思います。留年・退学率と就職率の改善、大学院の充実を含め、さらに上を目指したい。これらの推進力になるのは大学の総合力ですから、法人にバックアップしていただき、進めていきたいと考えています。
 研究分野では、先生方が産業界の方々と築き上げてきたネットワークがたくさんあります。そのネットワークを高度な教育に生かして学生を育てていただきたい。これにより最先端の専門知識と社会人として必要な素養を身につけた学生が育つと思います。ただ、いくら高度な専門知識を持っていても大学卒業者としてふさわしい人間形成ができていないと無意味です。また何事にも「やる気」が必要です。このあたりは、教養教育と初年時・キャリア教育で身につけさせ、これらと専門教育をうまく組み合わせた仕組みを作ろうと考えています。
交流促進へ新寮構想
 ――新しい寮の構想については。
 理事長 学生寮建設の発端は東日本大震災でした。芝園キャンパスには約4800人の学生がいます。通常時は3500人くらいです。その学生を万が一津波が起こったときにどうするのかということです。現在の学生寮は建設から約50年がたっており、老朽化していることもあり、芝園キャンパス内に新築し、災害時に学生の避難場所としての機能を持たせ安全な環境を確保する計画で建設を進めていきます。また、もう一つは海外からの留学生も積極的に受け入れ異文化の交流の場とすることも視野に入れております。
 女子寮を新設する計画ですが、理工系で女子寮というのは、ちょっと意外かもしれません。しかし、従来はハード面の技術で機能していましたが、これからは、使う側の視点で考えられた「ものづくり」のソフト面が重要となって、女性技術者のニーズは高まる一方であり、女性が元気に活躍することによって社会が活性化すると思っているのです。
 学長 今、大学寮が見直されているのは確かです。東京の伝統ある大学も学生寮を新設しています。学生を呼び込む狙いももちろんありますが、本学の場合はもう一つ大きな意味があります。現在、芝園キャンパスには3年生以上の上級生がいません。お兄さんお姉さんがいないことは、下級生が大学全体を見渡すチャンスを少なくします。また芝園キャンパスと津田沼キャンパスをはっきりと性格づけてしまうため、両キャンパス間に垣根ができてしまいます。この垣根を取り払うために、新しい寮をぜひ活用してもらいたい。芝園で4年間を過ごすような学科を作ってもいいと思っています。シャトルバスも増えるそうですから、津田沼と芝園間で交流する機会を増やして、両キャンパスが一体となって伸びていく環境を作りたいと考えています。

世界文化に技術で貢献


 ――奨学金制度はどうお考えですか?
 理事長 奨学金は貸付型、給付型といろいろ設けていますが、全てが学生に有効かというと、そうとも限りません。奨学金が多く学生支援が充実していることは表向き良いのですが、内面的には問題もあります。金銭的理由で学業をあきらめる学生にとっては奨学金の存在は大事ですが、奨学金を受給していても中途退学というケースもありうまく機能しているのかなど、きちんと検証して行っていくべきだと思います。
 学長 理事長のお考えは正しいと思います。海外の大学では奨学金制度が充実していますが、大部分は卒業生や企業などからの寄付でまかなわれています。寄付を集めるためには大学が信頼され社会の役に立たなければなりません。「あの大学の学生さんを応援しよう」ということになれば、本学にも潤沢な基金が自然に整備されると思います。まずは学生の質が上がるようなインパクトのある奨学金制度を充実させていただきたい。優秀な学生を伸ばすことは大学としては必要不可欠です。
 理事長 大学では並列の思想が強い。新しいことに挑戦すると「他大学と横並びでないとだめ。前例のないことをしては困る」とか、ある学科が教育改善をしようと思っても「学部単位で行ってほしい」など、これでは改革は無理でしょう。こうした垣根は打破しないといけません。
 学長 そうですね。垣根があると、何かやろうとしてもスピーディーに進まない。
 理事長 法人と教学は一心同体なんですが、それを別個に考えてしまう傾向が強いです。経営、つまり管理・運営が正常にできないと教育・研究活動にも支障をきたし人材も育たない。そこを理解してもらって、一気にはできないとしても、毎年一つでも二つでも垣根を壊していきたいと思います。
 学長 例えば、大学と病院は似ているところがあると思います。病院も今、良い医療を続けるためには経営が大事だと言われています。潰れる病院が少なくない。経営が悪くなるといい医師も集まらないし、最新の医療機械も買えないので、いい医療が提供できない。設備も古くなり、そうなると患者が、つまりお客さんが来なくなります。最近では、医療スタッフと経営スタッフが協力し合って病院を運営していくのが常識になっています。お互いの仕事を尊重し合い、組織を運営する姿勢が大事ですね。大学も同じです。最近、欧米の有名大学の教授と話をすると、必ずと言っていいほど、教育・研究に関係する重要な事項として経営の話が出てきます。
 理事長 数年前までは国立大がのんびりしていて、私立大が危機感を持って進んでいましたが、今は逆で、国立大は改革に大変熱心になっています。補助金を除けば、本学の場合、大半を学納金でまかなっているわけで、それを支払っている学生のニーズに応えるべきです。その上で社会や産業界の期待に応える人材を育てるのが義務だと思います。でも、高尚なことばかり言っていても仕方がないので、今はまず、社会の変化を先取りして、与えられた条件の中で最大限に努力する精神力のある「めげない」学生を育てることが大事です。
 ――人材の育成について学長のご意見を。
 学長 まず入学時が大切です。お米をとぐときに最初に入れる「水」が大切なのと同じです。お米は最初の水を最も多く吸いますから、いい水をゆっくり入れてあげると味がよくなるそうです。そこをきちんとやらないと、あとでどんなに上手に炊いてもおいしくなりません。今、欧米の大学と比較して日本の大学に欠けている点はここだと思います。学生にモチベーションをつけることにもっと力を入れなければなりません。国際的に通用する大学になるためにもやらなければならない改革です。大学は教育機関であり研究機関でもあります。教育がおろそかではいい研究はできないし、またその逆も言えます。理事長が言われる「めげない学生」を育てる教育も必要です。
ニーズに応え学科を改編
 ――人材育成については、メンター制度などが行われていますが?
 学長 メンター制度の考え方には反対ではありません。海外にもチュートリアルやスーパービジョンの制度などがあります。少人数を対象とした直接的な指導は大切です。ただ残念ながら現行の制度が当初の目的を達しているかというと疑問もあります。そこで、新たな制度の導入を考えています。1年後に学生寮が完成、そのときに全面移行する制度の「絵」を既に私が描いて学長補佐に具現化に向けた準備をさせています。博士課程を修了したポスドクのお兄さんお姉さんが、出席の管理だけではなく家庭教師みたいに教えるんです。寮に住んでもらってもいい。
 理事長 今回計画中の学生寮は、人材育成も考慮した教育寮としての機能をさらに強化したいと考えています。現在の若者は夢を語れないと言われていますが、ここでは将来の夢を描き、それに近づくために勉学や学生生活が充実するための問題解決や方向性を助言する、先輩たちによる支援システムを実施する計画です。
 ――学生への「マニフェスト」を。
 学長 大学の一番大切な財産は人材です。千葉工大の人材は3つしかない。学生と教職員とそして同窓生です。学生には「君たちも千葉工大の人材である」と言いたい。これをまず肝に銘じて、日頃の勉学や社会活動に励んでほしい。少々古い考えかもしれませんが、最近は学生の「愛校心」が薄れているのではないかと思います。同窓生には愛校心を持っていらっしゃる方が多い。ただ愛校心が強すぎてそれが垣根になることがあってはいけません。千葉工大の関係者全てが団結しグローバル化を推進することが大切です。
 理事長 私も同窓会には、出来るだけ出席するようにしています。卒業生の皆さんは、自分が在籍した期間しかご存じありませんので、自分たちが在籍した時代より大学の教育環境や施設が充実すると、うれしいと思う反面、ややもすると社会が厳しい状況の中で、「大学は裕福でいいな」という印象や声が聞かれます。そこで、これまで歩んできた苦難の歴史をご説明し、更なるご支援をお願いします、という行脚を行っています。大学は企業とはかなり違うと言うことをご理解いただきたいのです。
 同窓生の皆さんは前向きに反応してくれます。歴史を知ることは大事なのです。その上で「夢」についても話します。fuRoや惑星探査研究センター(PERC)は法人直轄ですが、これらは垣根の思想とは遠い地点にあり、同窓生はそのことを理解してくださいます。未来ロボティクス学科創設にも抵抗はありましたが、とにかく一つだけに集中するのではなく、いくつかを創っていくことによって全体のかさ上げになります。もう一つくらい“目玉”の研究センターがほしいですね。
 創設者のひとり、小原國芳先生が「夢」という色紙を残していますが、「タ」の点が一つ多いんです。学生に一つでも多く夢を持ってほしいという願いでお書きになっていたそうです。
 学長 私は就任して半年が経ちましたが、着実にグローバル化の芽が出てきていると感じています。学生に夢を与えるためにも、さらなるグローバル化が必要だと考えます。
 ――夢と現実が並行して進んでいるということですが、教育面での具体策はいかがでしょう。
 学長 理事長と相談し既に学部長会でも申し上げましたが、学科改編を行う準備をしています。ここ数年間の調査と実践により入口の高校側のニーズはかなり把握できていますが、出口の業界や企業のニーズは最近大きく変わってきています。それらに応える人材を育成する態勢を構築しなければなりません。高校生、現役学生、社会、業界・企業のニーズに応えられるよう、理事長と私でリーダーシップを発揮して改編を行います。
 理事長 転科のことですが、18歳で入学した学科がその学生にとって適しているのか。また、在学中に夢や目標が変わることは普通に起こることです。ある程度挑戦してみてふさわしい学科に移ることは学生の希望に沿うことになり、入学時のミスマッチをなくすことになります。
 十数年前、本学は改革の最前線にいました。今の勢いの源泉ですが、前年の踏襲では停滞につながります。今後10年、さらなる改革に踏み込んでいきたいのです。大学の中心は学部です。改革で受験生の目も向いてきます。個々の分野で最先端を走っている先生方もおられますが、学部・学科の改組転換では摩擦が起こることもありえます。それを乗り越えないと大学は成り立ちません。
 学長 日本の学生の学力は昔よりも下がっています。ゆとり教育はなくなりましたので10年もすれば優秀な生徒が入ってくるかもしれません。しかし、それまで手をこまねいているわけにはいきません。社会に貢献できる学生を育てる必要があります。理工系大学は社会や業界・企業のニーズを無視するとたちまち相手にされなくなります。
 理事長 教員と職員は車の「両輪」です。そして学生に対して「目線を低く」することが必要だと思います。冒頭に申し上げた「世界文化に技術をもって貢献する」というのが私たちの精神です。創立者が将来を見通していたわけで改めて素晴らしいことだと思います。
 学長 私は、OBの教員を増やしていきたいと考えています。これは理事長のご希望でもありますが、今本学の教員採用はほとんどが公募制になっていて、どちらかというと教育や社会貢献よりも研究実績が重視されています。そこで別のシステム、例えば、私は「千葉工大版テニュアトラック」と名付けましたが、優秀な本学卒業生を大学院の博士課程まで修了させ、さらに学内でポスドクとして学生の指導に当たらせる期間を設ける。そこで指導力が認められた者を教員として採用するシステムを作ります。先程も少し触れましたが、彼らには芝園キャンパスのお兄さんお姉さんになることから始めてもらいます。
 理事長 成長する人はいくつになっても成長します。その人の持つ人間力の問題ですね。卒業生を見ていると、成績もそうですが、元気で前向きだった学生がやはり社会に出て活躍しているのです。学長がおっしゃった愛校心・母校愛に関連しますが、そこに固まってしまっては進歩はありません。ここでもグローバルが大事ということです。大学の諸施策についても、権威ある方が言うことの逆をやってみるとうまくいくことが結構あります。競争に勝つには横並びではいけません。時代の変化を読み、社会の要請を反映させ魅力ある大学に向けて柔軟に対応していきます。
対談を終えて瀬戸熊修理事長(右)と小宮一仁学長
対談を終えて瀬戸熊修理事長(右)と小宮一仁学長