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2012.11.15

出版


「東部編」で3巻が完結
古市徹雄教授 小泉俊雄教授 遠藤政樹教授
古市徹雄教授 小泉俊雄教授 遠藤政樹教授
 今年7月刊行した2巻目・中部編に続く、第3巻「東部編」。
 ヒマラヤのブータン王国東部、タシガン地方のシャザン集落を昨年、実測調査した成果をまとめるとともに、伝統住居が秘める叡智を受け継ぐための提案を後半に盛り込んだ。
 斜面に建ち並ぶ集落が多く、最新機器でも測定が難しい中、手描きのスケッチや図面で補いながら記録した。東アジアにおける木造構法の比較も行った。
 古市教授らは、ブータンの自然――風や光、素材などを巧みに生かした伝統住居に、CO排出で破壊され続ける地球環境を救うヒントが隠されていると感じたという。その叡智を探り、東日本大震災の教訓も併せて、次の3つの提案を掲げた。
 1先進国で人間関係の希薄化が進んだ反省から、集落、集合住宅で人と人のつながりを持たせる建築を提唱2廃村住居群のチャンジジ集落をミュージアムパークとして保存するB伝統住居を未来に残すため現代技術で補強=耐震性、近代生活への対応、水回り空間の充実、コンパクト化とバリエーションの可能性を高める――など。
 ブータン建設省の協力で3年間、西部・首都、中部と続けてきた調査は、今回の東部調査でひとまず終了。3巻からなる世界的建築遺産「ブータン伝統住居調査」の報告書(英文併記)が完成した。
ブータン伝統住居III 東部編+提案
ブータン伝統住居III 東部編+提案
著者= ブータン王国建設省、千葉工業大学建築都市環境学科ブータン伝統住居実測調査団(古市徹雄・小泉俊雄・遠藤政樹・川崎英明・大峡正義・修士・学部学生)の共同研究
発行= ADP
価格= 2940円(税込)
より深い理解のために
轟木義一助教
轟木義一助教
 本学で物理科目を担当、これまでに相転移・臨界現象などの演習書を出している教育センターの轟木義一助教が、今回は学生や技術者に、基礎力学への理解を深めてもらおうと共同執筆した。
 構成は▽運動学(1)―座標と位置ベクトル▽運動学(2)―速度と加速度▽運動の法則と力▽簡単な運動▽エネルギーと仕事▽角運動量と回転運動▽振動▽非慣性系と慣性力▽質点系の運動▽剛体の力学の基礎▽剛体の平面運動――の各章。
 各章で基本事項の説明と例題・問題があり、章末にはまとめの演習問題、巻末にその詳しい解答が付いている。A5判・240ページ。
 演習書でありながら、より深く学習できるようにとの配慮から、むしろサブテキストに近い形をとって、重要な項目それぞれについて、その意味や導かれ方を詳しく解説している。このため、学生たちの自習用にも最適な1冊となっている。
新・基礎力学演習(ライブラリ 新・基礎物理学別巻1)
新・基礎力学演習
(ライブラリ 新・基礎物理学別巻1)
著者= 永田一清・元東京工業大学教授、佐野元昭・桐蔭横浜大学教授、轟木義一・千葉工業大学助教の共著
発行= サイエンス社
価格= 1943円(税込)

活躍する校友


創造・行動・スピード
世界を飛び回る
サンデン(株)社長
山本 満也(やまもと みつや)氏 (62歳)
(機械工学科 昭和50年3月卒)
山本 満也氏
「もっとハングリー精神を」と山本氏
 ヨーロッパでは独アウトバーンなど高速道路を豪快に疾走する車をときに見かける。むろん窓なぞ開けていられない。代わって必要なのがカーエアコン。気温の高い国では、車内の人間を熱中症から守る必需品とさえ言ってよいだろう。その基幹部品であるコンプレッサー製造・販売で世界シェア25%を誇る「サンデン」(本社・群馬県伊勢崎市)社長に6月就任した山本満也さんは、忙しく国内外を飛び回る。
 島根県の中部、江津市で高校まで過ごした。3人兄弟の末っ子。8歳上の長兄も同じく本学機械工学科卒だ。「県東部の出雲地方は関西弁になじみが深く、江津のある石見地方はどちらかといえば東京弁が強い」(山本さん)こともあり、迷うことなく本学へ。津田沼キャンパスの近くに下宿した。
 金属加工を研究テーマに選んだ。とくにネジやボルト。住宅から車、橋脚、おもちゃに至るまで、用途は多様。愛知県知多半島にあるファスナー工場での実習、その帰りに旅した信州など思い出は多い。が、印象深いのは研究室対抗のソフトボール試合という。ビールを賭ける。むろん払うのは負けた方。「なんど勝利のビールを味わったことか。でも、かっ飛ばして3号館の窓ガラスをよく割りましたね。えっ、卒論のテーマ? う〜ん、いますぐ思い出せないなぁ」と、インタビューした東京本社応接室で明るく笑った。
 就活はのんびりしていたという。4年生の夏休み、里帰りの寝台車中で三共電器(「サンデン」の前身)が画期的な車用コンプレッサー(冷媒圧縮機)を開発・量産化するとの記事を週刊誌で読んだ。そのあと兄の知人からも紹介を受けた。閃くものがあり、応募したところ採用に。
 配属先は技術畑ではなく広島支店だった。そのころカーエアコンはいまのように工場でのライン装着ではなく、1台ずつ別売りの後付け。車メーカーの系列ではない同社は、独自の販路を足で広げるほかない。山本さんはサービスエンジニアとして中国地方5県の自動車メーカーや整備工場を文字通りグルグル回った。
 東京へ転勤後もこの経験を財産にビジネス開拓に奔走した。そして、日本車の大量輸出で過熱する日米自動車摩擦の解消に米国へ工場進出した車メーカーとともに部品会社も渡米、山本さんは1990年デトロイトへ。初めての外国暮らしだが、仕事のやり方は日本と同じだった。
 「相手は”カタログ”としゃべっているのに、僕には”キャデラック”って聞える。”マクドナルド”も”マグダーナル”だから、どうにもならない。でも、たしかに自動車産業の街は荒廃していた」。苦労したらしい。5年勤めた。
 帰国後の2001年に執行役員となり、こんどはヨーロッパを任された。バルセロナ五輪(1992年)を機にカーエアコンの装着率は上がりつつあったが、英国ロンドンを拠点に欧州車メーカーへ売り込み。人間、一度エアコンの快適さを体感してしまうと、手放せなくなるらしい。「文化の違う現地のスタッフをまとめるのが一苦労でした」と山本さん。サンデンのシェアは最高45%へ達した。それにしても、なかなかの凄腕である。
 同社は冷凍・冷蔵ショーケース、自販機の製造など幅広い事業を手がける。トップとして国内と国外、そして社内とほぼ三分の一ずつを過ごす。「創造」「行動」「スピード」を信条に、社内時間の半分は会議というから、席の温まるひまはない。「休みは散歩やゴルフで気分転換です」。一時80台だった腕前は、いま少し落ちて90台とか。
 4年前、用事で近くまで来たついでに津田沼キャンパスを歩いた。「ずいぶん変わってましたね」と懐かしそうに話す。しかし、現代っ子にどこか覇気を感じられないことに「いささか日本の将来が心配」とも。「外国をひとりでフラッと旅してみようかという行動力、好奇心、ハングリー精神をもった若者がもっと欲しいですね」と熱いエールを送っている。