無重力は、材料研究にとって魅力的な環境
漫画「宇宙兄弟」では、難病の原因解明に無重力環境を役立てるというストーリーが展開されています。実際に、宇宙では地上ではできない実験が可能であり、私たちが取り組んでいる材料研究にとっても、さまざまな利点があります。例えば、地上で複数の材料を溶融させようとすると、密度の大きい材料は沈み、小さい材料は浮くため、なかなか均一には混ざりません。しかし無重力環境では「無浮力・無沈降」つまり浮かない、沈まないため、材料が均一に混ざった優れた材料をつくることができます。このほかにも無重力環境には、「無静圧」「無対流」「無容器浮遊」という特徴があり、これらを生かすことで今ある材料の性能を大幅に向上させたり、新しい材料を発掘したり、あるいは新しい材料の製造法を編み出すことができます。今はまだ気軽に宇宙に行くことはできませんが、実は私たちの研究室でも、物質を浮かせたまま融解させたり凝固させたりして、新しい材料の探索や、表面張力のような物性の評価などに挑戦しています。
材料の進化がなければ、実現できない未来があります
ただし、材料を空中に浮かせたとしても、地上ではやはり重力の影響があります。その差を埋めたり、重力によって見えていなかった未知の現象や新しい発見を得たりするために、私たちはJAXA、ESAなどと共同でISS※の国際共同実験に参加し、今後の材料研究に役立つ基礎的なデータを得ようとしています。その意味で私たちの研究室と宇宙はやはりつながっているのです。私たちが普段目にしているものにも数多くの先端材料が使われています。スカイツリーのような超高層建築が可能になったのは、東京タワーの建設時に比べ、2倍近い強度を持つ鉄鋼材料が開発されたからです。また、ハイブリッド車やEV※が実用化できたのも、モーターに使う超強力な磁石を自動車に載せられるほど小型化できたからでした。材料の進化はこれまで不可能だったことを可能にします。社会のニーズに応じて、より優れた機能や強さ、軽さを備え、環境負荷が低く、低コストで再利用しやすいといった材料を追究する材料工学は、社会の持続的発展を支える、とても重要な分野だと言えるでしょう。
※ISS:International Space Stationの略、国際宇宙ステーション
※EV:Electric Vehicleの略、電気自動車