千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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本研究では映像により算出された初期状態と慣性センサから算出した膝関節の角度の初期状態を同一と仮定し,慣性センサによる角度変化は初期状態における映像との差分を全データから差し引いた. 3.結果および考察 図2は例として1回目の歩行時におけるDTWを用いた探索経路(図2-A)および探索経路が対応する箇所を線分で結んだ関節角度変化(図2-B)である.2回目,3回目の試技についてもほぼ同様の結果が得られた. A: B: 探索経路の対角線部分は縦軸と横軸の波形が類似した部分,水平・垂直線は異なる部分を示す(3, 5).A図では比較的長い垂直線がつま先の離地直後に見られたため,つま先の離地直後のにおいて映像と慣性センサによる膝関節角度変化には違いがあるといえる.さらにB図にではつま先の離地直後に慣性センサにより算出された膝関節角度の最も屈曲している部分付近に灰色の線分が集中しているのが見られ,このことから慣性センサによる膝関節角度の最大屈曲付近が映像により算出された最大関節角度付近と比較して屈曲が少ないことが主な原因であると推察された.本来,慣性センサと映像により算出される膝関節角度は同じであり,探索経路は対角線のみで描かれるはずである.しかし,今回の分析では,特につま先の離地直後に比較的長い垂直線が見られた.これは,映像による動作解析が矢状面方向の二次元であり,慣性センサによるデータは三次元であるうえ,慣性センサのデータが固有で持つ三次元座標系で計測されていることが原因の一つと考えられる.歩行時の下肢関節動作は矢状面方向の屈曲や伸展のみならず,内外転・内外旋動作を伴う三次元動作である(7).このような映像解析手法と慣性センサで計測されるデータの性質の違いが今回の結果を生み出したと推察される.今後,慣性センサ(身体部分)の座標系からグローバル座標系への変換を考慮に入れた解析を行うことで,より慣性センサによる動作解析の信頼性が高くなると予測される.また,映像解析は手作業による校正作業やマーカー位置のデジタル化作業を行うため,人的誤差も要因の一つであろう.他にも,映像解析も三次元で行う必要性も否めない.しかし,つま先の離地直後に比較的長い垂直線が見られたことは特徴的であり,つま先の離地方法やその際の下肢または大腿部や下腿部の動作は非常に複雑である可能性が伺える. 次に,3回の歩行において,慣性センサから得られた膝関節角度変化をそれぞれDTWを用いて比較した.表1は,DTWにより得られた両波形間の総距離(差分)である. 表1.DTWにより得られた両波形間の総距離(差分). 試技 2回目 3回目 1回目 67.1 (deg) 45.4 (deg)2回目 81.2 (deg) 表1内の数字は比較した波形間の総距離であることから,この値が小さいほど類似度が高いといえる(3, 5).従って,1回目と3回目が最も類似した動作であったと考えられる.このように最終的に出力される総距離(差分)を毎回検討していくことで,スポーツ動作の獲得や熟達度合い,リハビリテーションの場面においては目的動作との類似度を評価することが可能となるであろう.特に著者は水中環境における陸上環境との動作比較や反復動作による比較評価にこのような方法を応用していくことを期待している. 4.まとめ 本研究では慣性センサを用いた身体動作計測の整合性と類似性について,将来水中環境へ応用することを視野に入れ,試験的に陸上歩行を対象とした映像撮影とDTWを用いた解析を行った.その結果,慣性センサのデータである程度矢状面方向への膝関節角度の再現は可能であったが,慣性センサデータのグローバル座標系ヘの変換や三次元映像との比較・検証が課題としてあげられた. 5.参考文献 (1) Miyoshi T, Shirota T, Yamamoto S, Nakazawa K, Akai M. Lower limb joint moment during walking in water. Disability and Rehabilitation. 25(21), 1219-1223, 2003. (2) Lee J, Mellifont R, Burkett B. The use of a single inertial sensor to identify stride, step, and stance durations of running gait. Journal of Science and Medicine in Sport. 13, 270-273, 2010. (3) Ohgi Y. Pattern matching application for the swimming stroke recognition. Portuguese Journal of Sport Sciences. 6(Suppl.2), 69-70, 2006. 図2.A:DTWにより算出された探索経路(実践).横軸に慣性センサにより算出した膝関節角度変化,縦軸に映像により算出した膝関節角度変化をおいた. B:映像により算出した膝関節角度(実践)と慣性センサにより算出された膝関節角度(点線)の時間変化.DTWにより対応づけされた箇所を灰色の線分で結んだ. A図,B図ともに点線の直線はつま先の離地時を示す. 80 60 40 20 0 20 40 60 80 190 180 170 160 150 140 sec 100 0 20 40 60 80 ° 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      40

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