千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
45/148

1.はじめに 本研究では,リスク要因とそれらの関係の集合をネットワークの形式で表現し,リスクの発現に対し強い特性を持つネットワーク構造を設計することで,頑健なリスクマネジメント手法を提案することを目的とする.その為の準備段階として,本稿において,経営危機事例を収集し,ネットワーク構造分析を行うことでリスク評価に役立つ各種ネットワーク指標の計算環境を整えることを目指す.リスクは独立して存在せず互いに関連性を持っていることが知られているが,時系列に従い常に変化するリスク要因に関してその組み合わせを動的に捉えることは難しい.本研究では,複雑ネットワークの手法を用いることで,動的なリスク関係ネットワークを分析し,定量的リスク評価およびリスク対応計画を立案するための手法の開発を行う. 2.研究の内容 リスクを早期に発見し,有効なリスクマネジメントを行うことは経営にとって不可欠な活動である.特にベンチャー企業の経営においては,経営体制が不十分であることや,企業体力の低さなどが原因で,安定的な成長ができるか否かを決める重要な要素の一つである[1].特にプロジェクトの一番重要な局面の一つは,プロジェクト立ち上げ時期であり,十分な経験や能力に依存しなくても,プロジェクトメンバがリスク事象を認識し,容易かつ精度よくリスク対応策を立てることのできる新しいリスクの識別手法が求められている[2]. リスクマネジメントは複数の工程の組み合わせからなるが,その一工程として,リスクの発生確率や影響度を測定するためのリスク評価がある.今日良く用いられるリスク評価手法として,定性認知分類法,事前削除法,状況対応法,類型学習法,リスク指数法,確率法・確率シミュレーションなどがある.これらの手法はリスク要因に対し個別的に発生確率や影響度を査定するものである.しかしリスクは独立して存在せず,それぞれ関連性を持っていることが知られている.例えば,地震というリスクが発現した場合,火事というリスクの発生確率が高まる.リスクを早期検知し被害を最小限に食い止めるためには,リスク伝播の過程におけるキーリスクを抽出することが重要であることも報告されている. 互いに従属し合いながら,時系列に従い変化するリスク要因を動的に捉えることは難しい.個別リスクの変化に基づき,全体を捉えたうえで個々のリスク評価を行うためには,リスクとそれらの関係の集合を評価し,全体が影響を及ぼす個々のリスクを算定する必要がある. 本研究では,複雑ネットワークの手法を用いることで,このような問題に対処する.スケールフリーネットワークやスモールワールドなどのネットワークトポロジの研究はネットワーク理論や複雑系の理論に関して多くの成果を上げてきたが,近年,社会ネットワーク分析や社会設計論の文脈においてもその対象範囲を広げてきた.本研究が取り扱う問題領域においても,その有効性は発揮されると考える. 3.ネットワーク統計量 本研究では,経営危機事例を収集し,ネットワーク構造分析を用いることでリスク評価を行うための準備を行う.本節では,用いたネットワーク統計量について述べる. (1) コサイン尺度 頂点間の関連性を計算するためにコサイン尺度を用いる. x, yを特徴ベクトルとして, cosxyxyxy と定義される.経営資源から抽出された特徴をベクトルとし,それら同士の関連性を求めることができる.関連性を測る尺度として様々なものが存在するが,コサイン尺度は最も幅広く用いられているものの一つである. (2) ネットワークを表す特徴量 ネットワーク中のある2つの頂点i, jをつなぐ経路中で,研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2013/6/1 ~ 2014/3/31 研究概要(和文): ネットワーク構造分析に基づく頑健なリスク評価法の開発 研究者: 武田 善行 千葉工業大学 TAKEDA Yoshiyuki 社会システム科学部 プロジェクトマネジメント学科 准教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      35

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です