千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.まえがき 内燃機関において,予混合圧縮着火(HCCI)燃焼方式は少ない有害燃焼生成物の排出と高い熱効率を両立する燃焼方式として注目されている.特に,低減の難しい窒素酸化物(NOx)は従来の燃焼方式と比べて1/10程度と少ないことが大きな特徴である.HCCI燃焼方式はガソリン機関と同様にシリンダ内に燃料を予混合気として供給し,ディーゼル機関と同様に圧縮による自己着火によって燃焼させる方法である.この方式では燃料を予混合気で供給するので燃料と空気が十分混合し,また,希薄混合気でも着火・燃焼可能なため, NOxやディーゼル機関で問題となっているスモークの生成が少なく,また,圧縮着火のため,圧縮比を高くすることができるので,ディーゼル機関並みの高い熱効率が期待できる.しかし,均一な予混合気のため,着火温度に達すると混合気が短時間に燃焼するので,高負荷では燃焼が極めて急激になり,何らかの方法によりこの急激な燃焼を抑制しなければ高負荷までの適用は困難である. 本研究ではHCCI燃焼方式において,燃焼室に副室を設置し,主室での着火・燃焼の前に副室で少量の燃焼を行わせることにより主室での急激な燃焼を抑制することを提案し,これまでに,モータリング中に間欠的に燃焼させる方法でこの燃焼方式が実現でき,比較的高い負荷まで運転可能なことを明らかにしている(1).そこで,本燃焼方式における機関性能・排気特性を明らかにすることを企画し,単気筒機関,副室式のシリンダヘッドならびに試験装置を準備し,性能試験を実施した. 2.燃焼コンセプト 副室を用いたHCCI機関における燃焼コンセプトは以下のとおりである.(1)吸気管内に燃料を供給し,圧縮行程開始前にシリンダ内に予混合気を形成する.(2)適切な時期に副室内に燃料を供給する.(3)上死点近傍において副室内で先に着火,燃焼を行わせる.(4)副室内の高温の燃焼ガスが主室へ噴出し,主室の予混合気の温度,圧力を上昇させ,通常のHCCI燃焼と同様の圧縮着火および燃焼を誘発させる.(5)排気行程で通常の機関と同様である. 3.供試機関および副室式への改造 供試機関はシリンダ内径96mm,行程105mm,排気量760㎝3の単気筒直接噴射ディーゼル機関で,燃料噴射ノズルの取り付け部を拡大し,その位置に副室を取り付け,副室式とした.副室は副室容積,連絡孔面積,形状などの仕様を変更できるように交換可能な構造とし,直接噴射ガソリン機関用のインジェクタを取り付けた.今回製作した副室を取り付けた場合の圧縮比は16.4,容積比は15%,連絡孔面積比は0.9%である.副室を取り付けた場合の燃焼室の構造を図1に示す.なお,主室(ピストン)については,元の直接噴射ディーゼル機関のものをそのまま使用した. Injector CapInjectorInjector HolderCylinder HeadPackingMain ChamberPre-chamberPistonPressure Pick-upInjector Cap 4.実験装置および方法 供試機関は直流電気動力計に接続し,燃料は副室供給用,主室供給用の二系統を新たに製作した.主室への燃料は,吸気ポート入口部に取り付けた吸気管噴射ガソリン機関用のインジェクタを使用して供給した.また,吸気温度を変化できるように,吸気管には空気加熱ヒータを取り付けた.実験に使用した燃料は主室へは圧縮着火しにくいエタノール,副室へは圧縮着火が容易なノルマルヘプタンとした.これは副室で先に着火,燃焼することが本燃焼コンセ研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): バイオエタノール・天然ガスを燃料とする副室式予混合圧縮着火燃焼機関の研究 研究課題名(英文): Homogenous Charge Compression Ignition Engine with a Pre-chamber fueled with Bioethanol or Natural gas 研究者: 佐々木 洋士 千葉工業大学 SASAKI Hiroshi 工学部 機械サイエンス学科 教授 図1 燃焼室の構造 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      5

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