千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに 生体硬組織用材料には生体不活性材料と生体活性材料とがある。生体不活性材料には生体と反応を起こさないCo-Cr合金,ステンレス,TiおよびTi合金などの金属材料,アルミナやジルコニアなどの酸化物セラミックスがあり,一方の生体活性材料にはバイオガラス(Hench ガラス),水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2:HAp)およびリン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2 :TCP)などのリン酸カルシウム系セラミックスが知られている。現在,機械的な強度に優れる金属材料やアルミナセラミックスは関節などの大きな応力がかかる部位に利用され,機械的な強度の低いリン酸カルシウム系セラミックスは過大な応力のかからない部位のインプラント材や骨欠損部の充填材などに利用されている。 このような骨などの硬組織用生体材料への利用には力学的な生体親和性も重要であり,骨と同等の弾性率と2〜3倍程度の機械的強度をもつことが理想といわれている。本申請研究のリン酸カルシウム系セラミックスは,アルミナやジルコニアなどのセラミックスに比べて弾性率が低く,その微構造を制御し,他の材料と複合化することで骨と類似した機械的な特性を有する材料創製が期待できる。また,リン酸カルシウム系セラミックスのうち,リン酸三カルシウム(TCP)セラミックスは生体吸収性という特長をもち,同質のHApセラミックスに比べて生体内での溶解性が高く,移植後に生体内で溶解して逐次新生骨に置換することがすでに報告されている。骨の再生や再建を期待する上で,TCP 系セラミックスのように生体内で吸収されながら自家骨の形成を促す材料は理想的な生体材料といわれている。さらにTCP系セラミックスの特長には,HApを焼結する場合,構造内にあるOH(構造水)の揮発に注意しながら限られた焼結条件および装置で行わなければならないが,TCPの場合には,容易に常圧焼結できる利点があり,製造プロセスからも非常に魅力的な材料である。しかし,現在のTCPセラミックスには,生体内での高すぎる溶解性によって,溶出成分がインプラントされた周囲の組織に炎症や損傷を引き起こすなどの問題点がある。また,材料の溶解性と新生骨の形成能との違いにより,新生骨の発達状況や骨と材料との接着状態,材料強度などにも影響を及ぼすことが十分に考えられ,これらのバランスをとることが生体吸収性セラミックスの開発の重要なポイントと考える。 現在,インプラント材料として骨吸収性を有して生体骨と早期に置換するセラミック系骨代替材料が注目されて,このような性質をもつ中心にβ型結晶構造のTCPセラミックスが位置づけられている。本申請のポイントは,生体の必須元素を用いてβ-TCPの新たな固溶体を形成させ,β-TCPの生体内崩壊性および材料強度を制御し,インプラントとして使用する際に生体内で材料の再骨折や過大な吸収等が起こらない材料設計をすることである。 初年度は,β-TCP 構造中のCa位置(陽イオン位置)に1価,2価および3価金属イオンの各種金属イオン,およびP位置(陰イオン位置)に各種酸素酸塩イオンを同時固溶させたβ-TCP焼結体の創製法(固溶と焼結メカニズム)の確立と材料物性を評価することを目的とした。 2.Si固溶リン酸三カルシウムの調製と評価 本研究ではβ-TCP に骨形成を誘導する働きがあるSiを固溶させることを目的とした。なお,β-TCPのP位置にSiを固溶させる場合にはP元素とSi元素の価数に違いがあることから,同時に電荷補償も考慮する。 Siを固溶させたβ-TCPを作製するために,P源に(NH4)2HPO4を,Ca源にCaCO3を,Mg源にMgOを,Na源にNa2CO3を,Si源にSiO2を出発原料としてもちい,(Ca+Mg+Na+□)/(P+Si)モル比が1.571となるように配合し,Ca(5)サイトにMgイオンを9.1 mol%あらかじめ固溶させておき,電荷補償のために空孔をNaイオンに置き換え,P(1)サイトにSiが固溶するように,Naイオン添加量を0〜4.6 mol%,Si添加量を0〜7.1 mol%と変化させて配合した。原料の配合比を表1に示す。配合した試料は,ボールミルで48時間湿式混合した後,大気中で900 ℃,12 時間仮焼した。その後,一軸加圧成形(約100 MPa)およびCIP成形(200 MPa)で成形を行い,大気中で焼成温度を1000℃〜1150 ℃と変化させ,焼成時間24 時間の条件で焼成して焼結体を作製した。 研究項目: 科研費採択者助成金(初年度),科学研究費(基盤研究(C)) 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 新生骨置換を促進するリン酸三カルシウム系セラミックス材料の開発と評価 研究課題名(英文): Development and Evaluation of Tricalcium Phosphate Ceramic Material with Promotion of New Bone Replacement 研究者: 橋本 和明 千葉工業大学 HASHIMOTO Kazuaki 工学部 生命環境科学科 教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      103

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