※本文中の役職等は取材当時のものです。

「いい!」即実行 海外生産を国内に転換

「難しいことに挑む気概ある学生が欲しい」と八鳥さん
「難しいことに挑む気概ある
学生が欲しい」と八鳥さん

TDKラムダ株式会社取締役

八鳥 佐内(はっとり さない)氏

(昭和58年、経営工学科卒)

 電気流れるところ、電源回路あり―この分野で世界的なリーディングカンパニー「TDKラムダ」(本社・東京)の長岡テクニカルセンター長、八鳥佐内さん(取締役)のモットーは“常在戦場”だ。「よいと思ったら即実行するチャレンジ精神かな」。新潟県長岡市にある同センターでそう語った。

 実家は農家で、高校まで長岡市で育った。かつて田中角栄元首相の地盤だった雪国である。明治維新で幕府側につき、敗れた旧・長岡藩の「米百俵」(目先の窮乏より未来を育てる学校づくりを)エピソードは有名だ。辛抱強い県民性。

 「でも自分は少し違う。我慢せず、考えていることをストレートに口にします。相手が上司でも、部下でも同じです。言ったことが間違いなら、すぐ直します」。にこやかな外見から予想できないシンのあるコトバが返ってきた。

 「大学は東京で」と本学へ。硬式テニス部で4年間を送った。キャンパスで入部勧誘されたとはいえ、それまでプレー経験ゼロ、しかも体育会系の部活へやおら飛び込むのは傍目には無謀と映るが、頑張り通した。「毎秋行われる学科対抗の運動会で土木科の11連覇を阻んだんです。うれしくてビールかけしました。ビールは目に入ると痛いと実感しました」。懐かしい一コマだ。

 下宿を4度移り、「クルマ社会における交通システム」をテーマに共同の卒業研究をこなし、ふるさとに工場をもつ「ネミック・ラムダ」(本社・東京)に入社した。

 同社の創業は日本中が大阪万国博(大阪府)でわいた1970年と比較的新しい。東京を本社に、工場は長岡市内に置いた。経済の拡大基調下、半導体製造など産業(工場)機器、医療、鉄道、金融・証券、通信と多方面で電子化は進んだ。モーター、バッテリーなど量産化・小型化に伴い、交流から直流へ変換する電源は省エネ社会のキーデバイスとして急成長。工場や事務所は国内のほかシンガポールやマレーシアへ広がり、開発設計部門の長い八鳥さんも3年間、シンガポールで新製品を立ち上げるなど、「身をもって多様性を体験した」という。

 2008年に電子総合部品メーカー・TDKへ親会社が変わってからも躍進を続け、いま拠点は欧米・アジアの15カ国に及ぶ。従業員600人、年商210億円。産業機器分野に限れば世界シェアは14%とトップを走る。2009年に長岡テクニカルセンターの長となり、役員には3年前就任した。

 差し迫っての課題は、生産ラインの自動化だ。今までは、国内販売する製品の多くを労働力の安い海外生産に頼っていた。このため為替変動によって輸入価格の振れは大きく、利益が安定しなかった。国内で生産すれば、為替の問題はなくなるが、人件費が高く、コストが合わない。「数年前から生産技術者を育成し、自動化・ロボット化を進めることで海外生産以下のコストを実現できた」という。

 同時に、快適な労働環境に向けた“働き方改革”にまで目配りの欠かせない時代である。「働き方の改善はイコール経営改革です。明日から残業をゼロにと言ってもムリな面はある。でも、例えば週末に次週の仕事量や会議などに要する時間を表に落とすなど作業を“見える化”していくことで見直しは可能」と意欲的だ。

 では、いまの若い部下たちはどう見えるのか。海外赴任の打診に、「『家族がちょっと……』と断るケースもある」と、いささかの戸惑いを隠さない。毎年10人前後を新規採用するが、「やさしいことより、難しいことに挑む気概ある学生が欲しい」と話す。

 たまったストレスはスキーやテニスの汗とともに流す。社内結婚の奥さんと3人の子もラケットを握るテニス一家である。

NEWS CIT 2017年5月号より抜粋