NEWS CIT ニュースシーアイティ

2016.10.15

長尾研開発 アクティブラーニング家具


「スクラム」にグッドデザイン賞
 2016年度グッドデザイン賞(日本デザイン振興会主催)の受賞作品が9月29日、発表され、本学デザイン科学科・長尾徹研究室と(株)イトーキ(東京本社=東京都中央区)が共同製作したアクティブラーニング用家具「スクラムシリーズ」=本紙1月15日号4面で紹介・写真=がグッドデザイン賞の1つに選ばれた。国内外のデザイナー、建築家ら76人からなる審査委員会は「チェア、デスク、ラックが一体となって個人単位で機能することが新しい。産学協同の成果」と称賛した。
 「スクラム(scrum)」は長尾研が、ゼミや図書館などのオープンスペースで学生が主体的に学ぶ「アクティブラーニング」が促進されるよう考案。昨年11月から一般販売されている。
 じかにメモできるホワイトボード天板、低めのテーブル、A3サイズの個人天板、キャスター付きチェアなどで構成。ノートPCやタブレットが使いやすく、ゼミやグループ討議、講義など要求に応じて自由に集合離散できる。
 今回は4085件が審査対象となり、約5カ月間審査された結果、1229件の受賞が決まった。審査会は日本のほか韓国、台湾、香港でも実施された。

団地活性化を住民と考える


5研究室が“袖団”ウイーク
 習志野市・袖ヶ浦団地(袖ヶ浦二、三丁目)の活性化を住民と一緒に考える「夏の袖団活性化ウイーク」が9月15〜18日、団地内で開かれた。
 習志野市と管理事業主の都市再生機構(UR)、本学の3者が2014年から進めている「袖ヶ浦団地活性化プロジェクト」の一環で、昨年に続き2度目。本学の5つの研究室(創造工学部建築学科の田島則行研究室、都市環境工学科の鎌田元弘、佐藤徹治研究室、デザイン科学科の倉斗綾子、稲坂晃義研究室)が合同で開いた。
 UR袖ヶ浦団地は本学津田沼、新習志野の両キャンパスのほぼ中間に広がる大団地で、日本住宅公団時代の1967(昭和42)年に入居を開始。現在戸数2990戸。建物の老朽化と住民の高齢化で空き室が増え、商店街に空き店舗も目立つ。
 本学は活性化について田島研を中心に、学生が団地に共同で部屋を借り(シェアハウス)、空き店舗を交流の場に運用する、などを計画。今年4月、学生 (男2、女3人)が1室ずつを借りてシェアハウスを始めた。学生たちは夏の盆踊り大会に参加したりお年寄りとの交流を目指し“仲間意識”が芽生えているという。
 本学では毎春、新入生を中心に約2千人が部屋を求めており、袖ヶ浦団地が“準学生寮”になることも期待される。
 研究室の学生たちはイベント3日目の「袖団コミュニティー・シンポ&フェス」で▽本学学生寮の寮生と団地住民のニーズ調査(鎌田研究室)▽団地生活の満足度に関する実態調査――などを報告。シェアハウス拡大を視野に団地での生活ぶりを語った。
 また昨年度、稲坂研が提案し今夏、倉斗研と共同製作した移動式大型本棚「ぶっくる」が団地街路に設置され、住民の関心を集めていた。
「袖団コミュニティー・シンポ」には団地住民も参加 「ぶっくる」は「BOOK」と「来る」をつなげた名称。団地の人々が自由に本を持ち寄り交換・交流する場に、と発想。本以外の物にも活用できる
「袖団コミュニティー・シンポ」には団地住民も参加 「ぶっくる」は「BOOK」と「来る」をつなげた名称。
団地の人々が自由に本を持ち寄り交換・交流する場に、と発想。
本以外の物にも活用できる

活躍する校友


進化は素材から
微細合金粉末で世界一へ
エプソンアトミックス株式会社社長
大塚 勇(おおつか いさむ)さん(49歳)
(平成4年、金属工学専攻大学院卒)
大塚 勇さん
「オンリー1の技術でNo.1の製品をつくる」と大塚さん
 「粉(パウダー)って生きものなんです」。粉は粉でも数十〜数百ミクロンの微細合金粉末だ。その技術がいかに人間社会に貢献しているか。セイコーエプソングループに属するエプソンアトミックス株式会社の本社(青森県八戸市)で素材サイエンスの面白さを聞いた。
 本学では現在、金属工学科は先端材料工学科へ改編されている。素材系は地味との印象があるらしい。「でもね」と大塚さんは身を乗り出す。
 「スマホやエアコンなど小型化や高度化、省エネが進んでいる。それまで二つ、三つと分かれていたパーツを一つにまとめる技術があって初めて設計を変更できる。素材こそ革新の出発点です」。口調は熱い。
 東京生まれの千葉育ち、「実家から通える金属工学科」と本学へ。バレーボール部で明け暮れた中高生時分からパソコンなど機械いじりが好きだった。バイトしつつキャンパスライフを楽しんだ。
 忘れられないのが金属工学科では伝説の「ジンギスカン事件」。学部生、院生が教授を囲み月1回、研究室(1階)でアルコール付き談話会を開く。教授が帰ったあとも続き、ラム肉を焼いた甘い香りの青い煙はモクモクと2階の教室の天井へ。「こらっ、責任者はだれだ!」。夜間部の教官が怒鳴り込んできた。「あの肉の仕入れ係は私でした」。
 学内のコンピューターをフルに使い、アルミニウム再結晶粒子のシミュレーション(修士論文)に根を詰めていた修士課程2年次の思い出である。
 論文をまとめ、農業機械で有名な「クボタ」(本社・大阪市)へ。基礎研究を志望した。兵庫県尼崎市にあった中央研究所で取り組んだのがアモルファス(非晶質)合金。金属は通常、原子が規則正しく並び(結晶構造)、強固だ。ところが1700度の高温で溶かした金属溶湯をミスト化して水で超急冷すると微小粉末へ一変する。固体なのに原子配列は液体のように不規則。電磁気特性やエネルギー伝導性に優れ、電子機器の部品素材などに応用されていく。
 12年目、転機が訪れた。男優の柴田恭兵さん似のマスクと歯切れの良さから、研究所労組支部の委員長に担ぎ上げられるなどしたが、研究所は「経営に寄与すること少なし」と廃止。開発したアモルファス合金粉末の新規ビジネスを続けるか否か「悩んだ末」、元看護師の奥さんや男の子2人を伴い2004年、エプソンアトミックスへ移籍した。「関西と同じく八戸も初めての土地。好きなことをできるのが一番だった」。
 移って3年間、「新規ビジネスは赤字」。しかし、アモルファス技術の確立と販路開拓に腐心、世界初の量産化に成功した。雌伏の間、大塚さんは東北大大学院(仙台市)へ社会人入学し、『SWAP法によるアモルファス軟磁性粉末の作製とその加圧成形磁心の磁気特性に関する研究』で博士号を取得。努力の人である。
 この技術のマーケットはもともと小さいという。それでもコピーは横行する。ただし、純正品を作れる会社はほとんどない。つまり国内外のシェアは100%。世界から八戸へやって来る。
 製品の価値は欠乏したときはっきりする。東日本大震災(2011年3月11日)。八戸港に近い本社工場は約1メートルの津波に襲われ、設備はほぼ全滅した。技術開発部長として米国サンフランシスコで顧客対応中の大塚さんはすぐ帰国。親会社などの応援を受け1カ月半で一部操業再開にこぎつけた。「製造不能と知っているのに注文だけは入ってくるんですよ」。
 その年、取締役に、今春には社長に昇格。加えてこの夏、インクジェットプリンターでは国内トップ級の親会社、セイコーエプソン株式会社(本社・長野県諏訪市)の執行役員も仰せつかった。
 仕事の傍らIEEE(電気工学・電子工学技術の学会、本部・米国)などに属して先端開発に目を注ぐ。モットーが面白い。「オンリー1の技術でNo.1の製品をつくる」。実際はオンリー1商品なのだが、それをうたうと顧客が万一の供給途絶を心配するからという。
 クボタで芽を吹いた新規ビジネスも本格軌道に乗り、2025年までに年間生産量を今の3倍の約6000トンへ増やす新工場を八戸市内で今秋着工する。トレーニングジムでストレスを解消する時間は削られそうだ。