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2011.11.15

心開くお手伝い
建都“プレサポ”たち
被災・志津川小に寄り添い


宮城 仮設桟敷で運動会
桟敷席からの眺めは抜群!応援に力が入る
桟敷席からの眺めは抜群!応援に力が入る
 子どもに元気を、地域へ活力を――東日本大震災で苦しむ宮城県南三陸町の町立志津川小学校(加藤敬一校長、児童数290人)を拠点に、建築都市環境学科・石原健也准教授の研究室を中心にした「プレイグラウンド・サポーターズ」(略称プレサポ)がボランティア活動中だ。入試広報部も支援して10月に運動会を開催。学生は子どもに寄り添うなど被災地とのきずなを深め、研究の糸口を模索する。
 一時は避難者であふれた志津川小は、志津川湾を望む高台にある。死者・行方不明者計約900人、建物の全半壊約3300棟に及ぶ南三陸町の惨状がほぼそのまま眼下に広がる。校庭の半分は仮設住宅(60戸48世帯)に。3・11は人と地域の運命を変え、子どもの遊び空間(原っぱ)と遊びの時を根こそぎ持ち去った。
 原っぱと遊びの再生をと、石原研究室の院生、ゼミ生、OBで編成したのがプレサポだ。やさしく言うと、「遊び場支援隊」。建築家仲間を介して志津川小PTA会長とコンタクトし、学校や町教委と相談しながら、1回7〜23人編成のチームはこの7カ月間、15回ちかく現地へ足を運んできた。このうち数回は東大や早大、地元・宮城大の教員・学生らの協力も得ている。
半透明な空間を
なごみの空間となるシェルターでクッション作り
なごみの空間となるシェルターでクッション作り
 一周180メートルとほぼ半分になった校庭のトラック周りに、48台の桟敷席(長さ2メートル×奥行き1・5メートルの2段ベンチ)が並ぶ。また仮設住宅の裏手、クリの木が茂る緑陰に丸太を組んだベンチ、野点床、ドーム状の「シェルター」(5メートル×3メートル)を配した。いずれも木の香りを放つ。
 野点床やシェルターに座って大人同士おしゃべりし、子どもは診療所ごっこ、ままごと、あるいは踊ってはしゃぐ。
 「大人と違って子どもは震災に触れたがりません。でも人形を手にしたとき、ふっと『わたしもこんなの持ってたけど、波に流されたんだよ』って寂しそうに語り出す。何かが開きかけているのかもしれません」とプレサポを引っ張る近藤亜美さん(建築都市環境学専攻修士1年)。異常にハイになって体をぶつけてくる子、逆に内向する子。「個室、集団部屋のどちらでもないこうした“半透明な空間”が役立つといいのですが」。
学校と地域を一体で
 学校ではこれまで、▽通学バス待ち時間に空き教室を使った低学年むけ「放課後ハウス」▽低学年の「手つなぎ鬼」遊び▽自分の体型を段ボールで切り抜いて彩色し、本人が分身を抱えて歩く「分身モノサシ」▽お気に入りの場所を探す「学校探検」といったワークショップを展開した。震災で150人も転校していった校内に児童の笑いと歓声、異学年の交わりの輪が広がる。
 一方、野点床で開いたのは「こどもカフェ」。たい焼きやカキ氷、ジュースを持ち込み、家で手伝いをしたらもらえる地域通貨「プーレ」と交換した。また日本ユニセフ協会の支援で幼稚園で幼児用椅子づくりも。
「とみさんのベンチプロジェクト」
 チームはアクションリサーチという手法をとる。ドグマ(独断)や予見を排し、観察・調査・評価を通して課題を絞る。たとえば――。
 夏。48世帯の仮設に太陽はジリジリ照りつけた。砂利道の反射はきつい。娘と小2の孫ら4人で暮らすとみさんがクリの木の下を愛犬と散歩中、スタッフへつぶやいた。「ここにベンチがあればなぁ」。確かに涼しい風がそよぐ。隣町の登米町森林組合に相談、材木を安く仕入れ、ベンチを組み立てた。
 野点床、シェルターも同じステップで生まれたが、一連の作品は赤い羽根「災害ボランティア・NPO活動サポート募金」(中央共同募金会)の助成対象に入った。
共存シンボル運動会
 例年5月の運動会は10月へ延びた。「復興のシンボル。仮設住民とも初交流なので、ぜひやりたい」(同小)。ここでプレサポが作り上げたのが桟敷席である。(株)CITサービスの協力を得て1500人分の昼食を用意。16日は雨で流れたが、教職員と学生らの手で特製プリン、お茶とともにすべて家庭や仮設へ贈った。
 翌週の23日も雨模様。学生らはハラハラしながら朝4時に起き、一輪車で校庭のぬかるみにせっせと砂をまいた。集団演技は体育館で消化、待望の青空の広がった午後、児童はトラックでリレーなどに汗を流した。桟敷は約500人の参観者で鈴なりだ。仮設住民お手製の桟敷用座布団も重宝がられ、「住民や千葉工大のおかげでうまくいきました」(同小)。
 高村正和君(修士2年)は「11月にまた行きます。桟敷は仮設住宅のベランダに変身しますので」。
見えてくるテーマ
 仮設入居者は町内バラバラな地区からの寄り合い所帯だ。「その意味では都会のマンション住民も同じ。互いにどう関わり、他人に自分を開いていくのか興味ある」と大野宏己君(建築都市環境学科4年)。コミュニティーを視野に置く。
 石原准教授は「空間は人の行為を変えることを具体的な体験から学び、ことばにしていく方が、理論書を読むよりはるかに勝る。それが卒業研究(設計)や修士論文につながればもっとよい。活動は少なくともあと半年、いやそれ以上は続くかも」という。先は長い。
OPEN CAMPUS 11.26(土) 第62回津田沼祭